ブログ

アメリカは信頼できる「友人」か?

For years now, Washington has seemed at a loss — adrift at sea — over how to cope with the nation’s deepening budget problems.

(ここ数年間、ワシントンは深刻化する予算の問題にどう対処するか、舵をとれない船のようにあたふたとしている)
― New York Times より

アメリカ社会を見舞う深刻な分断と世界情勢への危機感

 ウクライナの問題、そして台湾の有事。これらにすべて関連しているのは、アメリカと中国、そしてロシアとの対立でしょう。それがなければ、北朝鮮との緊張もこれほどの脅威にはなっていないはずです。
 
 最近アメリカの知人と話していて気になっていることがあります。
 それは、今まで何度も解説しているアメリカ社会の深刻な分断が、今後の世界情勢にとって大きなリスクとなりかねないという深刻な現実です。それは我々日本人が思っているよりも遥かに深刻な課題のようです。
 
 アメリカ人の知識層の多くは、トランプ前大統領の再選の可能性が充分にあり得ることに危機感をもっています。それは第一次世界大戦のあと、疲弊するドイツ社会でナチスが見事な宣伝工作活動で世論の支持を得て台頭してきたときに、多くの人が抱いた危機感に似たものがあります。有権者の半分はトランプ前大統領の「アメリカ・ファースト」というスローガンを嫌悪しています。アメリカ社会の急激な変化に苛立つ人々への同情を煽り、時代に逆行する価値観を標榜することへの危機意識がその背景にあります。
 
 しかし、現実問題として、アメリカが自分の社会を犠牲にしてまで、ウクライナや台湾問題に頭を突っ込んでいいのかという課題は、トランプ前大統領の台頭への恐怖心と切り離して考えるべきでは、とも彼らは考えます。国内問題と外交とを切り離して考えない限り、経済や雇用、さらには社会そのものをアメリカという国が支えられなくなり、国家そのものが取り返しのつかない混乱に陥るのではないかという懸念が広がっているように思えるのです。
 

国家の問題と外交に左右されるアメリカの不安定さ

 今回、アメリカの国家予算の承認をめぐって、共和党と民主党が対立し、ぎりぎりのところで暫定的という条件で「つなぎ予算」の同意が取り付けられました。同様の危機は政治が分断される中で、毎年のようにアメリカを見舞っています。以前は、国家予算が通らない場合、国立公園などのサービスが休止されるなどといった限定的な弊害で切り抜けることも可能でした。しかし、今は米軍をはじめ連邦政府のさまざまな機関で働く職員の給与の支払いまでが不可能になるという深刻な結末が背景に見えています。アメリカ国民はそんな落ち着かない政治のあり方に明らかに疲れてきているのです。
 
 ウクライナ支援は、そうした国家予算の中でも特に国民の目に晒されています。台湾有事のために展開しているアメリカ軍の動向も同様です。
 忘れてはならないのは、アメリカには海外との取り決めを永続的に遵守できない制度があるということです。大統領が変われば、大統領の特権ともいえる「エグゼクティブ・オーダー(Executive Order:大統領令、行政命令)」に署名することで、それまでとってきた軍隊の展開や移民(一般の入国者を含む)への取り扱い、関税や制裁に関する外交問題など、さまざまな政策を大きく変えることができるのです。また、どんなに大統領が望んでも、議会が大統領と対立した場合、海外との条約の批准などにも大きな支障が出てくることもありうるのです。
 有名な事例は、第一次世界大戦後の秩序の維持のために国際連盟を提唱したアメリカが、大統領と議会の対立のために連盟に参加できなくなったことでしょう。これは、そのまま第二次世界大戦への導火線の一つとなりました。アメリカは国家の制度の中に常にこうした不安定な矛盾をはらんでいるのです。
 
 最近、トランプ氏に対して批判的な陣営ですら、バイデン大統領続投への懸念が広まっています。大統領の年齢もあり、今後選挙に向かって充分に戦う力があるのか危惧されています。しかも、議会では下院で共和党に敗れた民主党を背負ったバイデン大統領は、政策運営においては、共和党との駆け引きが必要不可欠になっています。ウクライナへの援助の問題は、エグゼクティブ・オーダーだけではなく、議会での討議が必要な予算の問題と絡んでいるだけに、今後の帰趨が気になります。その結果ウクライナ問題が破綻し、万が一ウクライナがロシアに席巻されるようなことになれば、台湾問題も現実の課題となってしまいます。
 

アメリカだけではなく世界に利する日本の立ち位置を探すこと

 このように、アメリカの分断と世論の微妙な変化は、日本が今までのようにアメリカだけに依存して国家を運営してよいのかという根本的な課題を我々に突きつけるのです。アメリカの政策が大統領選挙の前後で常に左右に大きくぶれることは、これから間違いなく起こることで、そのリスクに対して日本は充分に対応できる体制ができているのか気になります。これは安全保障の問題だけではなく、金利問題や物価などに関する経済政策を含め、我々が本気になって考えなければならない、日本の未来の根本的な姿に関係した課題なのです。
 
 「アメリカはもう無償では仕事をしない。日本は自分で責任をもって防衛への負担をしなければね」と、世界情勢への知識や教養もあるアメリカ人が週末私に語ってくれました。彼は、アメリカ軍が日本に駐留する経費の相当額を日本が負担している事実を知らないのです。しかし、これがリベラルであろうがなかろうが、ごく普通のアメリカ人の日本に対する意識なのです。そこに誤解があろうが、事実とは異なっていようが、それがアメリカの有権者、そして世論の現実なのです。このことを我々はあまりにも楽観的に考えすぎなのではと思うのです。
 
 となれば、日本は台湾有事や中国との微妙な関係を背負いながら、太平洋の北西の角に位置するアメリカに利するための脆弱な防波堤に過ぎなくなります。しかも、その防波堤の価値は常にアメリカの世論に左右されているのです。
 アメリカは1812年にイギリス軍がワシントンD.C.に侵攻して以来、一度も本土が他国から攻撃されたことのない国家です。全米を鳥瞰しても真珠湾攻撃を除けば、アメリカが唯一被害を受けたのは他でもない9.11の同時多発テロのときだけなのです。
 その例外を除けば、アメリカが関わった戦争はすべてアメリカ本土から遠く離れた地域で拡大し、その土地の人々の生命や財産に大きな損害を与えてきました。
 アメリカから見えてくる日本の地政学的な位置付けは、まさにそうした太平洋の向こう側にある戦略拠点に他ならないのです。
 今、日本に試されているのは、この事情を理解したうえで、したたかに、かつ世界の平和にも貢献できるカードを切る力があるか否かなのです。
 

* * *

『英語手帳 2024年版』有子山 博美、クリス・フォスケット (著)英語手帳 2024年版
有子山 博美、クリス・フォスケット (著)
毎日、英語にふれて、1年後には英語で話せる自分になりたい。そんなあなたを応援する『英語手帳』。スケジュールを管理しながら英会話の基本フレーズや英単語が自然に覚えられます。英語力アップのヒントも満載! 今年は携帯しやすい人気のミニサイズに、3色のニューカラーが登場しました! ぜひチェックしてみてくださいね。

山久瀬洋二の活動とサービス・お問い合わせ

PAGE TOP