US president seeking re-election likely to have a hard time winning key state because of his support for Israel.
(再選を目指す大統領が、イスラエル支持を維持していることで、主要州での勝利が困難な状況に)
― アルジャジーラ より
ガザ侵攻をめぐる国内外の分断に翻弄されるバイデン政権
アメリカのミシガン州で先月起きたことは、今後の大統領選挙の行方をみるだけではなく、ガザ侵攻で揺れる国際情勢を分析するうえでも気になることです。
アメリカの自動車産業の中心地ともいえるデトロイトを擁するミシガン州で、先月バイデン大統領を批判する
抗議活動が展開されたのです。活動を展開したのは、アラブ系アメリカ人の人々です。
ミシガン州の都市部はアラブ系アメリカ人の最も多く居住する地域で、彼らは地域の自動車業界にも進出している影響力のある移民グループです。そんなミシガンで、バイデン政権がパレスチナでアラブ人を殺戮するイスラエルに対して寛容であることへの怒りが爆発したのです。特に、先月ガザで起きた、食料を求める人々に向けたイスラエル軍の発砲事件で多数の死傷者がでたことは、彼らの怒りにさらに油を注ぎました。
ミシガン州の州知事は民主党の
ホイットマー氏ですが、この州は都市部を離れれば、保守の岩盤支持層も多く、有権者の意識が二極化している州でもあるのです。前回の大統領選挙の前に、極右グループによるホイットマー州知事の誘拐計画が摘発されるなど、現在のアメリカの分断を象徴する事件も起きています。
さて、アラブ系移民は、民主党の支持基盤です。しかし、イスラエルのガザ侵攻以来、無実の市民が殺戮の対象となり、避難民に飢餓が蔓延するなど、事態が深刻化するにもかかわらず、バイデン政権は和平への強いイニシアチブを発揮できていません。しかも、票のうえでも経済的なバックアップとしても重要なユダヤ系の人々の多くも民主党を支持しているため、バイデン大統領は有権者の二つのグループと、国際世論との間でがんじがらめになっているのです。
アラブ系の人々の怒りは、彼らのルーツの凄惨な状況とリンクしているだけに深刻です。バイデン政権もイスラエルに停戦への圧力をかけるものの、イスラエルはイスラエルで、現在の政権は右派に支えられていて、ハマスを殲滅していない以上、その提案をすぐにはのめません。しかも、ネタニヤフ政権はアメリカの事情にも精通していて、今バイデン氏が身動きを取れなくなっていることも計算に入れているはずです。彼にとってはむしろトランプ氏の方がありがたい存在なのです。
確かに、この問題が加熱すると、トランプ氏への支持率が上昇しているなかで、バイデン政権にとっての命取りになりかねません。ミシガン州と同様にバイデン大統領の出身地でもあるペンシルベニア州など、民主党と共和党の支持率が拮抗しているスイング・ステートと呼ばれる州を一つでも失えば、バイデン大統領支持への地崩れが起きかねないのです。
係争を抱えるトランプ vs 指導力が低下したバイデン
今回の大統領選挙は、トランプ氏、バイデン大統領のどちら側にも懸念材料がある中で行われます。
トランプ氏は、先の大統領選挙のあとの
連邦議会議事堂乱入事件を画策したのではないかという疑惑や、脱税等のさまざまな係争を抱えて選挙戦に突入しています。それでも、アメリカ・ファーストというわかりやすいスローガンによって、移民を排除し、アメリカをアメリカ人の手で復活させようというメッセージに共感する人々は、あなどれない数にのぼります。
とはいえ、共和党候補指名争いでトランプ氏の対抗馬だった
ニッキー・ヘイリー氏が離脱したことで、民主党は嫌いでも、いくらなんでもトランプは支持できないということで、ヘイリー氏を支持していた人々の票がどう流れてゆくのかも懸念材料です。
一方のバイデン大統領は、なんといっても老齢による指導力の低下が懸念されています。海外の要人の名前を間違えるといったことが何度もあり、それでなくても激務が求められる大統領の職を全うできるのかということが、最大の課題です。その中で、イスラエルのガザ侵攻によって、民主党の支持母体が二つに分断されようとしているのです。
冷静に考えれば、トランプ氏が大統領に返り咲いた場合、よりイスラエル側に立った政策を展開し、ウクライナへの援助も抑制されるのではと予測されます。しかも、アラブ系などの移民に対しての風当たりも、より厳しいものになるはずです。しかし、現政権がこのどちらの問題に対しても有効で目に見える対応ができないでいることに、一般の有権者は苛立っているのです。
この逆風をなんとか乗り越えたいというのが、バイデン大統領の本音です。それだけに、彼の中にはイスラエルやロシアの頑なな対応への怒りがあるはずです。そんな苛立ちからか、3月7日に議会で行われた
一般教書と呼ばれるバイデン大統領の演説は、トランプ氏への攻撃に終始しているようで、彼自身の政策の明示が希薄でした。このことで、演説を支持できないという有権者が6割を超えてしまいました。
今回の選挙は、右と左に分断されたアメリカがどうなるのかという争点に揺れていることは周知の事実です。
しかし、二極化の下にもう一つ、冷静に国際情勢と移民の立場を見極められる人々と、現在起きていることへの不満だけに目が向いている人々との乖離という、流動的な動きがあることも知っておかなければなりません。この流れが、以前は民主党を支持していた人々が右傾化する原因にもなっているわけです。
国内世論の右傾化と世界情勢に揺れるアメリカ大統領選挙
パレスチナ問題はもつれています。そして、ガザに住む女性や子供など肉体的な弱者は飢餓と破壊にさらされ、一刻も早い救済が求められます。このもつれの背景については、改めて解説したいと思います。
しかし、とにもかくにも、あまりにも激しく揺れる国内情勢と国際情勢のはざまにいる有権者が、選挙の時点で付和雷同した場合、それがどちら側の流れにプラスになるのか読めないのが、今回の選挙の特徴です。
いくらなんでもトランプ氏ではという人々の懸念と、老齢化し目に見える即断即決力への不安が募るバイデン大統領ではという人々の懸念が、選挙の行方につながるという負の選択をしなければならないことが、今のアメリカの大きな課題なのではないでしょうか。
これから当分の間、アメリカ大統領選挙の行方を世界が注視するでしょう。ロシア、イスラエルはもとより、中国やEU各国など、今回の選挙の結果がこれらの国々の政策に与える影響は計り知れません。戦後に培われた国際間の人脈が希薄になり世代交代が進むなか、世界情勢を人と人との新しいネットワークで収束できなくなったのが、今の世界の課題です。
それだけに、以前はそんなネットワークの中心となっていたアメリカが、その経済力と軍事力の大きさゆえに、実のところ世界情勢の火薬庫になろうとしているのです。
11月5日の選挙までは、そうした視点をもって、さらに分析と解説を続けてゆきたいと思います。
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『日英対訳 I Have a Dream! 世界を変えたキング牧師のスピーチ[増補改訂版]』
マーティン・ルーサー・キング・ジュニア (原著)、山久瀬 洋二 (解説)
1955年、モンゴメリー・バス・ボイコット事件を契機に自由平等を求める公民権運動がにわかに盛り上がりを見せる。この運動をカリスマ的指導力で舵取りしたキング牧師。インド独立の父ガンジーに啓蒙され、自身の牧師としての素養も手伝って、徹底した「非暴力主義」を貫き、群衆を導いた。“I Have a Dream (私には夢がある)”であまりにも有名なスピーチで英語を学ぶと同時に、アメリカが大切にしている価値観が理解できる一冊です!
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