An entrepreneur is someone who jumps off the cliff, and builds a plane on his way down. Everything in life has some risk, and what you have to actually learn to do is how to navigate it.
(起業家とは、崖から飛び降りて、その途中で飛行機を作るような人物を指している。人生にリスクはつきもの。だからそのリスクと付き合いながら、いかに航海してゆくかを学ぶことが大切なのだ)
― Reid Hoffman(PayPal前COO、Linked In創業者)の言葉 より
日本人の「ものづくり」プライドを捨て去る日
今回紹介したヘッドラインは、以前にも引用したことがあるかと思います。しかし、ここで改めてこの言葉を紹介するのには理由があります。
今年ノーベル物理学賞を受賞した真鍋氏が、なぜアメリカに渡り向こうの国籍を取ったのかと尋ねられたとき、日本では色々なことに協調性が求められ、外れた発想や行動を取りづらい環境があり、それが科学者には向いていないからだと答え、反響を呼びました。
彼がコメントした日本の社会環境への問題提起は、今に始まったことではありません。しかし、日本からなぜ優秀な科学者が流出するのかという課題は、今日本の産業界そのものの存亡にも関わる重要なテーマなのです。
そのことについて、ある自動車メーカーの技術部門を束ねる人と意見交換をしました。
彼がコメントした日本の社会環境への問題提起は、今に始まったことではありません。しかし、日本からなぜ優秀な科学者が流出するのかという課題は、今日本の産業界そのものの存亡にも関わる重要なテーマなのです。
そのことについて、ある自動車メーカーの技術部門を束ねる人と意見交換をしました。
日本人は長きにわたって「ものづくり」にプライドをもってきました。
何年も前のことですが、ある自動車メーカーでエンジンのピストンを製作している技術者と話をしたことがありました。彼はピストンをシリンダーから引き抜くときに出る微妙な空気音を聞き分けて、エンジンの性能を判断するという、言葉では語れない特殊な技能を持っていました。よくいう下町の町工場にはそうした技術を持つものづくりの達人がたくさんいて、日本の産業を支えていたのです。
何年も前のことですが、ある自動車メーカーでエンジンのピストンを製作している技術者と話をしたことがありました。彼はピストンをシリンダーから引き抜くときに出る微妙な空気音を聞き分けて、エンジンの性能を判断するという、言葉では語れない特殊な技能を持っていました。よくいう下町の町工場にはそうした技術を持つものづくりの達人がたくさんいて、日本の産業を支えていたのです。
「今、このものづくりのプライドを捨てなければならないのです。それが必要なくなっているという現実を直視しなければなりません。だって、これからの自動車はスマホで稼働し、シェアされるようになるわけで、この現実を技術部門の人が本気で考えないと、日本の自動車産業は終わってしまいます。それも20年と経たないうちに」
その自動車メーカーの事業部長は、危機感をあらわにしながらこのように語ってくれました。
その自動車メーカーの事業部長は、危機感をあらわにしながらこのように語ってくれました。
「部品の調達方法も変わってきます。今までは下請けとメーカーとの関係で時間通りに部品を納品してもらうことは当たり前のことでした。でも、これからは部品の調達先そのものが変わってしまい、単に自動車業界だけでの部品の奪い合いではなく、ありとあらゆる業界が求めている小さなチップを安定して供給してもらう、交渉力とネットワーク力へのノウハウが求められます。しかし、日本にはそんなノウハウを持っている人は多くありません」
日本の自動車業界が誇るカンバン方式による調達システムを捨て去らなければならない日が近づいているのです。ジャストインタイム方式ともいわれ、一つのボードに示された製品番号と納品ルール、スケジュールに従って自動的に部品が運ばれラインに組み込まれる技術によって、日本の自動車業界は生産効率を飛躍的に向上させ、アメリカをはじめとする世界の自動車業界を圧倒してきました。このノウハウの根底が揺らいでいるのです。
というよりも、カンバン方式では求めるものを調達できなくなるほどに、技術が世界に拡散し、調達ラインがよりバーチャルで複雑になっているのです。
というよりも、カンバン方式では求めるものを調達できなくなるほどに、技術が世界に拡散し、調達ラインがよりバーチャルで複雑になっているのです。
日本の製造業、そしてR&Dにつきつけられる課題
自動車の電動化によって、部品そのものの数は大幅に減少する傾向にあるものの、その代償として部品一つ一つに電子技術が組み込まれ、それが有機的に統合されなければ車が製造できなくなるわけです。かつ、生産された自動車を走らせるためのインフラも大きく変化することになります。インフラと車との双方に、まさにスマホなどを媒介した互換性も必要になるのです。ナットやボルト、レバーやギアといった今までの部品が無用の長物になるわけで、部品に対する根本的な考え方や発想の転換が必要になってきているのです。
「日本の自動車業界は、こうしたごく近い将来への意識がいまだに希薄なのです。しかも日本の産業を支える金融界も、目の前にあるモノへの投資しか頭にありません。経営陣に金融界から滑ってきた人がいた場合、こうした新しい変化への対応はさらに遅くなってしまいます」
事業部長のコメントを聞いていると、これは日本の産業界全体の課題のように思えてきます。確かに金融や財務をやってきた人に新たな投資について話をしても、具体的な完成品が見えない限り、話すら聞いてくれないケースはあちこちで見受けられます。金融界と産業界との協調性を一義とする日本の製造業全体に課題がつきつけられているのです。
「完成品ができてからでは遅いのに」とその人はこぼします。
「物が見えたときは、すでにその先に世界は進んでいます。目に見えない発想を積極的に支援する気風が欠けているのです」
「物が見えたときは、すでにその先に世界は進んでいます。目に見えない発想を積極的に支援する気風が欠けているのです」
自動車業界だけではなく、どんな業界でもR&D、つまり技術開発部門はその会社の心臓部です。そこにあるコアな技術が会社の未来を支えます。しかし、このR&Dが過去の栄光の経験から抜け出せない場合、R&Dそのものがその企業の未来への生き残りの足かせになってしまいます。今多くの業界が、調達部門と技術部門との建設的な緊張関係によって、R&Dが陥りがちな罠を回避し、過去を精算して乗り越えてゆく必要性に迫られているのです。
求められる「ものづくり」への意識改革と「新しい協調性」
さらに、この問題は日本人の意識変革の必要性にも関わってきます。日本人の多くが「ものづくり」を日本の特技と思っているとき、美しい和紙を作る技(わざ)と今産業界に求められている部品やインフラに関する「ものづくり」の必要性とを混同し、同じ次元で意識してはいないでしょうか。
熟練者の勘と繊細な指先が生み出す匠の技と、グローバルな競争に勝つための「もの」への意識を混ぜこぜにして考え、それを日本の優位性だと思っていると、とんでもないことになってしまいます。
大切なものは大切にし、必要なものは学び変化させることが今求められているのです。
熟練者の勘と繊細な指先が生み出す匠の技と、グローバルな競争に勝つための「もの」への意識を混ぜこぜにして考え、それを日本の優位性だと思っていると、とんでもないことになってしまいます。
大切なものは大切にし、必要なものは学び変化させることが今求められているのです。
また、このとき最も気になるのが、日本企業の組織の硬直性です。真鍋氏の指摘する「協調性」が生み出す負のベクトルです。今の世界は、今回のヘッドラインで引用したようなスピード感と試行錯誤をよしとする、可変性に富んだ起業家によって開発される技術によってリードされています。日本の企業が製品を納入する相手が、こうした起業家によって創り出される技術であることを意識せず、彼らを納入業者だからという立場だけで判断していては、取り残されてしまうということなのです。
もっというなら、一緒に試行錯誤する柔軟性と起業家精神の共有が求められるわけです。完璧な完成品だけを要求するのではなく、未来へ向けた開発とリスクを共有する調達方法も必要になるでしょう。また、調達先が多様で世界に拡散する先端企業を相手にする場合、カンバン方式による生産体制を改善し、ある程度在庫を持ちながら必要に応じて調整をしてゆく生産ラインの再構築の必要性も出てくるはずです。
もっというなら、一緒に試行錯誤する柔軟性と起業家精神の共有が求められるわけです。完璧な完成品だけを要求するのではなく、未来へ向けた開発とリスクを共有する調達方法も必要になるでしょう。また、調達先が多様で世界に拡散する先端企業を相手にする場合、カンバン方式による生産体制を改善し、ある程度在庫を持ちながら必要に応じて調整をしてゆく生産ラインの再構築の必要性も出てくるはずです。
そして、この変化を急ぎなし得た者が未来の勝ち組となるわけです。R&Dの意識変革の向こうには、日本企業全体の未来への向き合い方が問われています。
協調性の負の遺産を改善し、海外との「新しい協調性」のフェーズへとアップグレードし、スピード感ある改革をしてゆくことが求められているのです。
協調性の負の遺産を改善し、海外との「新しい協調性」のフェーズへとアップグレードし、スピード感ある改革をしてゆくことが求められているのです。
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『アメリカ英語によるアメリカ流交渉術』
浅見 ベートーベン (著)
アメリカ英語は、交渉で使われる正式言語です。しかし、日本で売られている英語ビジネス交渉術を学ぶ学習書の多くはイギリス英語で書かれています。アメリカ英語とイギリス英語では表現も話の進め方も違います。イギリス英語には簡単なことも難解な表現で表すという特徴があり、論点がわかりにくくなりがちです。
本書では、IBMで英語での交渉に専門に携わってきた著者が、アメリカ流の様々な英語交渉のコツと、それらにちなんだ交渉関連のフレーズを詳細なスキットを通して伝授します。