ブログ

国際企業の成功を左右する多様性への対応力

Organizations need to adopt diversity management strategy as a response to the growing diversity of the workforce around the world.

(企業は世界の労働市場における多様性の拡大に対応するマネージメント戦略が必要だ)
― California Management Review より

インタビューから見える日本と欧米との価値観の相違

 この10年間、国際企業で様々なインタビューをしてきました。
 ある質問をして、それに「そう思う、どちらかといえばそう思う、どちらかといえばそうは思わない、そうは思わない」という回答を求め、統計でまとめました。被験者は1万人を超えています。代表的な質問は以下の通りです。
 
「上司や同僚などの出席する会議などの場で、自らの意見と違う発言があった場合、それは違うとはっきり表明できる」
 
この問いかけに対して、日本人社員の7割が「どちらかといえばそうは思わない」か「そうは思わない」と答えました。
 
 そして次の質問は、

「上司は部下の仕事をしっかりと理解して細かく対応するべきだ」

というものでした。これに対して、日本人の7割が「そう思う」か「どちらかといえばそう思う」と答えました。その割合は年齢が高いほど多くなります。

 さて、同じ問いを欧米の人々にすると、結果は日本人と見事に逆転します。欧米人の8割が、最初の質問に「そう思う」か「どちらかといえばそう思う」と回答し、次の質問には9割の人が「どちらかといえばそうは思わない」か「そうは思わない」と答えたのです。しかも、はっきりと「そうは思わない」と答えた欧米の人は7割にもなりました。
 
 1番目の質問の場合、日本の企業風土を考えれば想像に難くはありません。しかし、面白いのが2番目の質問です。欧米人のほとんどは、上司は結果で判断し部下にフィードバックすればよく、部下のことを細かく知る必要はないと回答してきたのです。そして「そうした上司がいれば、私はすぐに会社を辞めます」と答えた人も多かったのです。
 

日本の企業が海外企業の買収を成功させるためには

 企業規模に関わらず、企業の技術をより洗練させるためには、コアテクノロジーでさえも、多くの改善や他分野との融合が必要です。そのためにはM&Aも欠かせません。そこで、日本でも多くの企業が海外企業の買収を試みるのですが、買収が成功しているかといえば、多くの疑問が残ります。最近は円安のために、より一層、国際競争に欠かせない他社との連携が困難になっています。であればこそ、円安であったとしても、将来性のある会社に対して、その企業価値が上昇する前に投資するノウハウを習得しなければならならないはずです。
 ただ、そのときに、我々は従来のM&A戦略を大きく見直す必要があることも忘れてはならないのです。そのヒントが、冒頭の質問への答えからくる欧米と日本とのビジネス文化に関する価値観の相違なのです。
 
 例えば、以前も取り上げたテスラの例を見てみましょう。テスラはアメリカ企業ですが、創業者を含め、会社の中枢を担う人は、ほとんどが海外の出身者です。
 別の事例で言うならば、組織の中のヒエラルキーはあるにせよ、買収する企業がすべて買収された企業の上位に立つかといえば、必ずしもそうではありません。以前に紹介したIBMのような巨大企業でも、買収したレッドハットの経営者を逆に自らの社長に迎えた例もあるのです。
 
 大切なことは、買収は企業が企業を占領するのではなく、そこの人材や資源を活用してシナジーを生み出すことにあるという点です。冒頭に紹介した質問の結果の違いから見える、海外の社員の異なった価値観に対して柔軟性があるかないかが、買収の成否にかかっているのです。日本企業が今までのピラミッド型の企業経営ではなく、より広範な人事戦略や技術的ネットワークによって業績を上げてゆくためのノウハウを研鑽する必要があるのです。
 
 アメリカのミシガン州アナーバーには、多くの自動車企業が集まっています。日本企業の多くもR&D(技術開発部門)を置いています。このような場所から、世界に向けて人材ネットワークのラインが伸び、交錯し、人々と技術との交流が活発になっています。シリコンバレー、ボストンやアトランタなどにある先端企業との交流が進んでいるのです。
 また、人材はというと、M&Aで拡張した組織から効率的に人を獲得するために、例えばアジア部門の人材センターはシンガポールなどに置いて、西はインド、東は日本に至るまで、広くヘッドハンティングのネットワークを伸ばしている欧米の企業も多くあります。
 

日本の企業が弱点を克服して海外戦略を見直す必要性

 こうした状況の中で、日本企業の立ち位置は微妙です。ここで強調したいのは、多くの日本企業には、共通した弱点があるということです。それが今回例示した、多様な価値観に対応する柔軟性の欠如なのです。
 
 まずは、企業の技術が日本の本部だけに集約され、世界各地に分散し交流していない現実が挙げられます。
 例えば、アメリカに駐在する日本人幹部にインタビューすると、多くの人が、いまだに「米人社員」という言葉を使います。その上で、日本人社員は現地の人々といかに効率よく仕事をするかという課題に向け、汗を流しています。しかし問題は、その「米人社員」という意識なのです。そこには、日本人とアメリカ人とを切り離して考えようとする意識が隠れています。ですから、本部や日本の風土に馴染まないアメリカ人の社員が不適応を起こし、定着率が悪くなることがあります。
 とはいえ、日本人の言うことをよく理解して共同作業ができるアメリカ人は、組織に残って長く就労します。しかし、そうした人が技術の上でも、業績の上でも、変化するグローバルな環境に切り込んでいける優秀な人材かといえば、それは疑問です。優秀な人材は得てして組織に馴染まないかもしれません。
 
 であれば、外部の人材として契約するか、必要とされる技術を持つ企業を別途買収すればいいじゃないかと言われますが、そこに第二の問題が潜んでいます。
 それは、その買収した企業ですら、日本は自らの組織の下に置いて、本社の哲学でマネージしようとする傾向が強いからです。ですから、M&Aで高額な費用を投じても、その企業の良さを充分に吸収できず、最終的に投資に失敗し、チャンスが損失になるケースも多いのです。テスラや他の海外の企業のように、組織の幹部が世界から集まっている状況を作り出せないのです。
 
 この話をすると、多くの企業人が反論します。「しっかり管理しないと統率もとれなくなり、品質管理も顧客サービスも中途半端になる。今ですら、現地では納期の遅れや企業人としてのモラルの問題が多いのに……」と。
 しかし、あえてこの反論に対して指摘をするなら、「それで海外との競争に勝てるのですか」という一言です。企業は大きくなると、その内部にヒビが入っていても、愚痴を言う人はいるものの、それを指摘し、修正のためにリーダーシップを取る人は多くはいません。しかし、海外の多国籍企業の多くは、多様な文化を持った人々が知識を持ち寄れるため、ヒビを見つけたときに、それを合理的に修正できるようなフラットな対応が可能です。
 
 それを日本人は「つぎはぎだらけの修正」と言いますが、そこには「企業は人」という常識を誤って解釈している現実が隠れています。日本の場合は「企業は人」ではなく、「企業は日本人」なのです。そして、「企業は組織」ではなく、自らが心地よく座ってきた「日本の組織」なのです。その目で海外の企業戦略を見ると、それが多様で変化に富んでいるだけに「つぎはぎだらけ」で「その場しのぎ」に見えてしまうのです。
 日本人がアメリカ人社員を「米人」と表現して、冒頭の調査結果に出たような常識の差異を実感せずにマネージした場合、こうした価値観の相違の罠に引っかかり、善意が悪意に誤解されるケースも多くあるのです。
 
 世界は多様です。多様なことを理解し、国際企業として成功するには、思い切ったマネージメント・テクニックの変換が求められます。時間をかけても、この課題を乗り越えられない企業は、海外戦略が不完全燃焼を起こしたまま、10年先、そして20年先に大きな代償を支払うことになるのではないでしょうか。
 

* * *

『アメリカ人が毎日使うフレーズ』ジェームス・M・バーダマン、マヤ・バーダマン (著)アメリカ人が毎日使うフレーズ
ジェームス・M・バーダマン、マヤ・バーダマン (著)
アメリカ人がよく使うシンプルなフレーズを、頻度順で効率よく習得!
「これだけ覚えておけばぜったいにスピーキングはできるようになる!」という表現をジェームス&マヤ・バーダマン先生が精選。どの表現にも難解な単語は使われておらず、すべて中学英語なので、しっかり覚えて使いこなせるものばかり。 “コミュニケーションの道具としての英語”は簡単な表現だけで十分に伝えられる!
収録はアメリカ人が使用する頻度順で、冒頭から順に覚えていけば、より効率的に実践で使えるフレーズを習得できます。

山久瀬洋二の活動とサービス・お問い合わせ

PAGE TOP