【海外ニュース】
日本のTPP交渉への参加により、世界の貿易の3分の1、さらに世界の GDP の 40パーセントが自由貿易の地域になる見込みだと期待される
【ニュース解説】
TPP の交渉に日本が加わったことは、参加国の多くから歓迎されています。しかし、日本が掲げる自由貿易の例外のアイテムについて、それがそのまま認められる保証はどこにもありません。
今回紹介するシンガポールでの記事のように、TPP に参加している国々の新聞は概ね日本の参加を肯定的に捉えているものの、それはあくまで今までなかなか煮え切らなかった日本の方針がここにきて明示されたことへの評価といえましょう。もちろん問題はこれからなのです。
多くの人は、今の段階で交渉に加わる事自体無謀 reckless だと批判します。またある人はまだ充分に交渉の余地 room for the negotiation があると主張します。
そこで今回は、こうした声を視野にいれながら、それではこの交渉で日本側が事前になさなければならなかった事柄は何だったのかという点について解説してみたいと思います。
交渉に至るずっと前から、TPP の結果を憂慮する人々は、TPP への参加反対を唱え、日本国内でデモやロビー活動 lobbying を通して政府に圧力をかけてきました。そして、政府が最終的に TPP での交渉に参加することを表明したとき、農協団体などを含め、多くの団体は日本政府の決定に失望し、さらに政府に圧力をかけました。
日本にいれば、こうした活動はよくある、当たり前のデモンストレーションだと思うでしょう。すなわち、政府の方針に反対する者が、その意思をデモなどの活動で表明することは、民主主義国家ではよくあることだからです。
しかし、ここで彼らの活動の弱点を指摘する日本のメディアは殆どありませんでした。その弱点とは、TPP に反対する人や、懸念を持っている人が、常に日本政府のみを見詰めて活動していることです。
彼らの多くは、海外の TPP への懸念を表明する団体や、彼らと利害を同じくしたり、対立する団体と直接コンタクトし情報収集や交渉の糸口を事前に見つけ出したりといった行動を積極的に行っていないのです。ただ、政府に向けて絶対反対と繰り返すのではなく、交渉の中で妥協点や give and take が可能な領域などへの分析をし、独自に戦略をたてる姿勢が皆無なのです。
物事に絶対はあり得ません。絶対反対と呪文のように繰り返す人は、私には交渉能力はありません、単なる頑固で知恵のない人ですと、国際社会で思われても仕方ありません。
しかし、日本では海外との交渉などに問題を感じるとき、常に政府を見て、政府に対して解決するよう依頼します。そのとき皆で「絶対反対」と繰り返すのです。自分の問題を自分の責任として積極的に海外とコンタクトして、その情報を持って自国の政府と戦略を練るといったような能動的な発想がみられないのです。
これでは、政府が出遅れれば、全てが混乱するだけで終わってしまいます。これが総合力としての日本の交渉力のアキレス腱となります。企業同士の交渉などを除き、日本でロビー活動をする人々が海外と直接コンタクトを取り、ソリューションを模索するケースは殆どありません。全て政府におまかせで、交渉が不調に終わればただ政府に泣きをいれるだけ。これは国際競争力の上での深刻な問題です。
間接的 indirect、カジュアル informal、そして非公式 unofficial なコミュニケーションと情報収集活動こそ、TPP などの交渉では欠かせません。
例えば、そうした日本の団体の中に、海外の関連団体や利害が対立する団体の中に知人がいて、ブルネイ到着直後にホテルのバーなどで寛ぎながら話し合いができる人がどれだけいるでしょう。他力本願、政府という権威への依存のみでは海外の檜舞台では笑われこそすれ、真顔でテーブルについてもくれません。彼らが外交辞令で言っていることを真に受けたり、相手にされなかったりしたことに卑屈になっても、そこから産まれるものは、想像もしていなかった結果や失望となること請け合いです。
この問題を解決するには、組織の中にそうしたネットワークを持てる人材を育成しなければなりません。もし、海外から人材を雇う場合は、自らの心地よい答えだけをもってくるイエスマンではなく、相手とちゃんと交渉ができ、時には雇った側にも主張することはちゃんと主張できる人材を選ぶ必要があります。
先週の記事でも簡単に触れましたが、日本人が海外の人材を獲得するとき、陥りがちなのが、相手国でしっかり仕事が出来る人材ではなく、日本社会にうまくとけ込める人材を選びがちだということです。その人の適正に従って、4番バッターとして厚遇するか、特別な条件とゴールを設定しながらそうした人と契約するといった対応が必要です。サッカーのナショナルチームに海外のコーチを招聘するようなノウハウが求められるのです。それが前回に語った accountability という考え方なのです。
TPP をはじめ、国際交渉では総合的なチャンネルをもって、官民ともに情報を収集しながらお互いにフィードバックし合える国としてのチームワークと機動力が問われます。
海外の交渉相手の多くは、実は若い頃に欧米の大学への留学経験もあり、そこで培った交渉力とネットワーク力を駆使してきます。今やるべきことは例え時間がかかっても、日本ではそうした人材をしっかりと育成してゆくことが急務なのです。