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アメリカ特殊部隊の電撃作戦の背景、そして今後の課題は

10月27日、米ホワイトハウスで「イスラム国」の指導者バグダディ容疑者について話すトランプ大統領(ロイター=共同)

“Last night, the United States brought the world’s No. 1 terrorist leader to justice,”Mr. Trump said in an unusual morning nationally televised address from the White House. “Abu Bakr al-Baghdadi is dead.”

(「昨夜、アメリカは世界最強のテロリストに鉄槌を下した」トランプ大統領はホワイトハウスから、異例の朝の全米向けテレビ中継でそのように語った。「アブー・バクル・アル=バグダディはすでに死んでいる」と)
― New York Timesより

このタイミングで作戦実行した背景とは

 つい先日、トランプ大統領が、アメリカの特殊部隊がシリア北部に潜伏していたISのリーダー、バグダディ容疑者を追い詰め、彼が3人の息子を道連れに自殺を遂げた、と発表したニュースが飛び込んできました。
 このニュースは瞬く間に世界を駆け巡りました。
 ISは、長年にわたってイラクやシリアでの混乱を利用して活動領域を広げ、インターネットなどを駆使した今までにない動員力とネットワーク力をもって、世界中でテロ活動を試みてきた組織です。
 拘束したジャーナリストを斬首したり、対立する部族や宗派の人々を処刑したりレイプしたりするなど、その残虐な行為は、世界の国々の利害を超えた共通の脅威とされました。
 
 こうした背景から、アメリカの特殊部隊は、通常は微妙な国際関係に揺れているシリアやロシアとも情報を交換し、シリアの領土に部隊を送り込んで作戦を実行したことになります。ある意味で、国際的な軍事ネットワークなどのサポートを土台にした作戦だったと、トランプ大統領が強調しているようです。そして、その協力関係の中にはクルド人組織も含まれていたと言われています。
 
 ただ、ここで一つ疑問がわいてきます。
 なぜ、このタイミングでアメリカは特殊部隊を送り込んだのでしょうか。アメリカはつい最近、シリアのクルド人支配地域からの全面撤退を進めましたYPGと呼ばれるクルド人勢力は、アメリカと共同でISの掃討活動を実施してきた人々です。そんなクルド人は国家を持たない民族として、トルコなどでの差別に直面していました。アメリカ軍の撤退を受けて、トルコはシリアのクルド人居住地域への攻撃を始め、このことがシリアとシリアを支援するロシアとの新たな緊張につながるのではないかと懸念されました。実際、攻撃を受けた市民の多くが死傷したことで、アメリカはクルド人を利用するだけ利用して見捨てたのだという批判に晒されました。
 さらに、こうしたアメリカのプレゼンスがなくなった中東に、権力の空白地帯が生まれ、そこにISが進出して新たな展開をするのではという脅威も強く指摘されていたのです。
 
 今回、シリア領からの米軍撤退によるこうした懸念にピタリと蓋をする絶妙なタイミングで、ISの指導者が殺害されたのです。人々に恐怖を与える指導者がいなくなったことは、決して悪いことではありません。しかし、今回の作戦行動が、ここに記した様々な懸念を払拭するために最適のタイミングで実施されたことから、そこにはトランプ政権による世界からの批判をかわすためのしたたかな宣伝工作の意図があったのではと思われます。
 

PC: ASSOCIATED PRESS

バグダディ死亡の余波と懸念される報復

 中東の情勢は極めて複雑で、安易に評論することはできません。イスラム教の様々な宗派や部族、さらにはイスラム教と対立する人々との利害など、中東のもつれをうまく解ける人は日本のみならず世界でも数少ないのではないでしょうか。それだけに、今回のあまりにもすっきりとした作戦の実行と、その成功の次に起こることへの不安は隠せないのです。
 まず、ISの創始者とされるバグダディ容疑者を暗殺したことで、世界に拡散されたISのネットワークが崩壊するとは思えません。むしろ西欧への反感を刺激し、報復などといったさらなる活動が世界で展開されない保証はどこにもありません。もちろん、日本も例外ではないのです。
 
 例えば、中国を例にとりましょう。
 中国ではウイグル族などイスラム教徒への不平等な扱いへの不満が、中国政府を震撼させるテロへつながるのではという脅威を抱いています。そこで、彼らの政治活動への激しい弾圧と迫害が行われているといわれ、西欧諸国も彼らへの人権侵害を事あるごとに指摘してきました。そして、中国政府の弾圧でさらに追い詰められた人々が過激な行動に出るとき、ISの組織で訓練を受けていたことは周知の事実なのです。
 
 さらに、アメリカがもともと世界戦略のために利用してきた人々が、逆に反米テロの指導者へとなった事実も忘れてはなりません。9.11世界貿易センターなどを破壊したアルカイダの指導者だったオサマ・ビン・ラディンも、元はといえばアメリカのイラン戦略などの折にアメリカに協力した人物だったのです。
 そして、彼らの影響を受け、イラク戦争の折に拘束されたアメリカの収容所の中で、世界へのテロの構想を練りネットワークを始めたのが、今回殺害されたバグダディ容疑者だったのです。
 
 物事を善と悪の二つの色で簡単に評価し、その時の必要性に応じて自らの利益のためにそうした人々を利用してきた欧米への反感は、中東では特に根深いものがあるのです。そして、インターネットやSNSというツールを使って、世界中でこうした反感を持った人々をバーチャルにネットワークしたことが、ISのようなモンスターを生み出した原因となったのです。
 

10月21日、シリア北東部カミシュリで、米軍の車両にジャガイモを投げる住民ら(ANHA・AP=共同)

目的はテロの撲滅か、再選のための対策か

 トランプ大統領が自らの手柄として、彼への支持率を上げるために今回の行動を指示したことは事実でしょう。もちろん、それによってテロ活動の一翼が粉砕されたことは評価しなければなりません。しかし、大統領がその成果のみを誇示し、テロが起きる中東の複雑な背景に蓋をしたとき、そのツケはさらに大きなものとなって地球上に拡散するはずです。テロの撲滅をポピュリズムとつなげることのリスクを、我々はこれからじっくりと考えるべきなのです。
 
 とはいえ、クルド人支配地域からの米軍撤退への批判をかわすための戦略としては、今回のタイミング良い判断がトランプ大統領への追い風となったことは否めない事実でしょう。
 

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見えない組織から生まれたアメリカの新たなうねり

“The more you can make your organization invisible, the more influence it will have.”

「あなたの組織が見えなくなれば、より多くの影響を与えることができるようになる」
― Douglas Coeの講演より

Invisible organizationが思い描くキリスト教の再組成

 Invisible organization「目に見えない組織」という言葉があります。これは通常ビジネスなどで、バーチャルな連携によって発生する組織を意味する言葉です。
 しかし、この言葉は元々宗教活動などにおいても使用されていました。
 例えば、キリストが最初に伝道を始め、その後彼の弟子たちが教えを広め始めたとき、それは Invisible organization でした。しかし、その組織は確実に拡大し、やがてローマ帝国末期に国家の宗教として崇拝されるに至りました。
 
 この Invisible organization の運営者であることを自認した人物が主催し、大統領をはじめとするアメリカの政財界の大物が、任期中に必ず一度は参加するイベントがあるのです。それは毎年2月の最初の木曜日に、朝食からランチ、さらにはディナーに至るまで開催される ”National Prayer Breakfast” です。2017年の冬に他界したDouglas Coe という人物が運営する、The Fellowship というキリスト教系の組織がそれを主催します。Douglas Coe は、オレゴン州出身のプロテスタント系の伝道師で、終生自らのことを Invisible organization の主催者だと語っていました。実際、彼の主催する組織の活動に参加した政治家は民主党共和党を問わず、直近ではヒラリー・クリントンジョージ・W・ブッシュなど、アメリカのほとんど全ての指導者を網羅しています。
 そして、Douglas Coe はネットワークを通じて、世界中の政治家とアメリカの指導者とのミーティングをアレンジし、イスラエルやアフリカ諸国、ソビエト崩壊後のロシアなど、様々な地域とアメリカとの紐帯に貢献したのです。これは、日本ではあまり知られていない事実でしょう。彼はその組織を通じて一つの目論見を果たそうとしていたように思えます。それは、キリスト教の再組成という遠大なビジョンです。
 

アメリカで静かに進行するキリスト教の融和

 アメリカ人の多くはキリスト教を信仰しています。アメリカ人の最大多数が所属する様々なプロテスタント系の宗教組織に加え、アイルランドやイタリア系のアメリカ人を中心にローマ・カトリックも深く社会に浸透しています。
 今、そんなキリスト教を一つにまとめようとする動きが静かに進行しているのです。その輪は、キリスト教の母体として旧約聖書を共有するユダヤ教にまで及ぼうとしています。元々アメリカの友好国ではあるものの、トランプ政権はさらにイスラエルとの同盟関係を強化し、中東諸国に衝撃を与えています。さらに、アメリカとロシアも決して以前のように激しく敵対するライバルではなくなりました。ロシアがソ連の主軸国であったころ、アメリカは共産主義への脅威から、ソ連と激しく対立していたことは周知の事実です。しかしソ連が崩壊し、ロシアに伝統的に根付いていたロシア正教の活動が活発になると、アメリカとロシアは猜疑心を持ちながらも静かな接近を始めたのです。
 
 西暦395年にローマ帝国の国教となって以来、ローマ帝国に保護され、国家の精神的支柱となったキリスト教を、人々はローマ・カトリックと呼びました。そしてローマ・カトリックは、自らの教義に相容れないキリスト教徒を異端として追放し、以来長年にわたってそうした人々に厳しい迫害を加えてきました。そして、キリスト教ではないにしろ、キリスト教の母体ともいえるユダヤ教に対しても同様の迫害を加え、その伝統は近現代にまで至りました。帝政ロシアナチス・ドイツでのユダヤ人への迫害は、20世紀の記憶として人々の心に焼き付いています。さらにローマ・カトリックは、東ローマ帝国が主催するキリスト教に対しても、教義の違いをもって絶縁し、それがロシアやギリシャなどで信仰される正教会と呼ばれるキリスト教の母体となりました。
 16世紀以降、そんなカトリックの権威に対抗して広がったプロテスタント系の人々の活動も、神聖ローマ帝国とつながるカトリック系の国王や領主などからの厳しい弾劾を受け、プロテスタント系の人々の多くが新大陸に避難し、アメリカ合衆国成立の原動力となりました。このように、キリスト教の様々な分派は分裂と対立を繰り返し、お互いを強くけん制しながら、現代に至ったのです。
 
 過去に一度、そんなキリスト教世界がまとまろうとする動きがありました。それは、イスラム教国であったセルジューク朝トルコが東ローマ帝国を圧迫したときのことでした。時の東ローマ帝国皇帝が、絶縁状態にあったローマ・カトリックの教皇に救援を求めたのです。それが世に名高い十字軍が始まった原因となりました。一瞬とはいえ、キリスト教が対立から融合に向かった瞬間です。1096年のことでした。
 それから1000年近くを経た現在、キリスト教の多様な組織が共存するアメリカ社会の中で、それまでの対立から融和へと向かう静かな活動が再び始まったのです。それは、共産主義の脅威に起因し、現在ではイスラム教との対立軸の中で政治とも融合する一つのうねりとなりつつあります。それがトランプ政権でのイランや中国との対立、さらにはイスラエルとの同盟強化の向こうにあるパレスチナの人々やアラブ社会との対立などを生み出しました。こうした静かな動きを支える組織こそが、Douglas Coe などに代表される Invisible organization なのです。
 

(左から) ポパイ,スーパーマン,トムとジェリー

日常の小さな営みから巨大なうねりへ

 人は、生まれながらにしてその地域の文化の影響を受けて育ちます。
 例えば、アメリカの漫画を思い出してください。スーパーマンでも、トムとジェリーでも、ポパイでも、そこには常に正義のヒーローと悪人とが存在し、正義が悪をやっつけるというテーマが底流しています。子供の頃から、人々は無意識に、この二元論を植え付けられてしまうのです。その背景には宗教での正邪の発想があります。この正義と悪との二元論は歴史を通して人々の心に刻まれ、人々を敵と味方とに引き裂きました。古くはキリスト教内での異端への弾劾に始まり、近年では第二次世界大戦において、ドイツ人が自らを正義として、ユダヤ人は悪人であるというレッテルを貼って虐殺しました。今、アメリカ社会の中には、共産主義を経て、イスラム教への脅威が新たな善と悪という対立項を人々の心の中に植え付けています。この善と悪という二元論が浸透する過程を見れば、最初の段階ではどこにもそれを指導するリーダーは存在しません。それは町の教会での日曜日の礼拝や、学校での道徳の授業、あるいは家庭教育などといったごく日常の中で培われてゆく価値なのです。そして、それがある程度社会の価値として認知されたとき、そこに指導者が現れ、一気に社会や国家を統率するようになるのです。Invisible Organization とは、そうした日常の小さな営みを巨大なうねりに変化させる見えない触媒の役割を担っていることになります。
 キリスト教が過去の対立から融合へと向かうのが良いことか、それとも新たな二元論へ向けて人々を駆り立てる危険な行為かは、我々一人一人がしっかりと判断しなければならないことでしょう。
 
 ただ、現在問題となっている政治の世界でのポピュリズムが、この日常の価値を巨大なうねりへと変化させる強力な触媒となっていることは事実です。日本と韓国との対立、中国とアメリカとの対立、イスラム社会でのシーア派スンニ派との対立、さらに宗教に起因するインドとパキスタンとの対立など、二元論が社会に浸透するとき、常にそこには Invisible Organization という触媒があり、それによりガスが充満したときの起爆剤の役割を担おうと、チャンスを狙う指導者がいることを我々は注視しなければならないのです。
 

* * *

『アメリカ史 / A Short History of America』西海コエン (著)アメリカ史 / A Short History of America』西海コエン (著)
アメリカの歴史を読めば、アメリカのことがわかります。そして、アメリカの文化や価値観、そして彼らが大切にしている思いがわかります。英語を勉強して、アメリカ人と会話をするとき、彼らが何を考え、何をどのように判断して語りかけてくるのか、その背景がわかります。本書は、たんに歴史の事実を知るのではなく、今を生きるアメリカ人を知り、そして交流するためにぜひ目を通していただきたい一冊です。

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国際社会でシニカルに笑われる日韓論争

©時事通信社

“An official of South Korea’s foreign ministry told Reuters it has expressed regret over Kono’s ‘rude’ attitude. Anger over wartime history can stir nationalistic feeling in both countries.”

(韓国外務省の関係者は、ロイターの取材に対して河野外相の無礼な態度に遺憾の意を表明。先の戦争をめぐる怒りが両国のナショナリズムをかきたてる)
― ロイター通信より

とある立食パーティーにて、外交について思考する

 たまたまロサンゼルスで出席したある立食パーティーで、日本語で話しかけられました。「なぜ日本語を」と聞くと、横須賀の海軍基地将校として勤務していて、今は業務で帰国後の休暇中だからだということでした。
 そこで、はあえて「Thank you for defending us. (日本を守ってくれてありがとう)」と冗談っぽく話しかけました。相手の反応に興味があったからです。すると彼は、「Oh. It is a partnership. Sure it is. (我々はパートナーだよ。もちろん)」とニコリとして答えてくれました。
 
 Partnerという言葉は、同等の立場で平等の原則に従って一緒に仕事をしている、という前提に基づく発言です。彼はアナポリス(アメリカの海軍士官学校)を卒業した海軍の幹部の一人です。であれば、当然こうした質問にどう答えるかを心得ているわけです。私の質問が、トランプ大統領が「日本はアメリカを守ってくれない」と発言したことを前提とした皮肉であることを彼が理解していたかどうかはわかりませんが、この返答は極めて外交的で軽妙です。相手を尊重しながらも建前を話していることをほのめかした発言です。
 
 そして、日韓関係の話題に移りました。
「どうしてどちらの国も意地を張っているんでしょうね。極東の状況を知る多くの関係者は少々戸惑っていますよ。あなたはどう思いますか」
と質問を受けます。
「70年以上にわたって戦前の問題を引きずって、いまだに解決できないのは、双方に問題があると思いますよ。例え日本がすでに話し合いは済んでいるはずだと主張しようが、韓国がそんなことはないと反論しようが、事実として70年間何も進展しないこと自体問題ですね。おそらくお互いの外交力の欠如でしょう」
と私は答えます。
「いえね。アメリカはアメリカンインディアンへの過去の厳しい仕打ちなど、国内ですら様々な民族問題を抱えていますしね。その補償なんてこともあるんですよ。しかも、ベトナム戦争ときたら、アメリカがベトナムから何を言われても仕方がない部分もあるでしょう。でも、全てに言えることは、未来に向けて動かないことには、過去にこだわっていてもどうしようもないってことです。もっとビジネスライクにいかないものですかね」
横にいた、私の知人がそう言って話に加わります。
 それに対して私も「全く同感。これはどちらの政府にも問題を解決する能力がなく、その言い訳として国民を煽っているとしか言えないように思えますよ」とコメントしました。
 

©Nikkei Inc.

外相の「無礼」パフォーマンスに見る日本外交の落とし穴

 そんなとき、河野外務大臣が駐日韓国大使の発言を「ちょっと待ってください」と強く遮ったことをふと思い出したのです。これは韓国のナム駐日大使が、徴用工の問題で日本と韓国の企業が共同で賠償しようという韓国の提案を日本が拒絶したにも関わらず、それに再び言及したときのことでした。
 「日本の立場は伝えてあるのに、それを知らないふりをして再び持ち出すのは無礼でしょう」と外相が言及したことは、マスコミも大きく報道しています。
 
 そして、日本の世論のほとんども、煮え切らない問題に日本側がきっぱりと、かつ強く言明したことに喝采を送っているかのような論調が目立ちました。
 河野外相は参議院選挙の前に「怒れる日本」を強調したかったのでしょう。しかし、海外のマスコミの反応は極めてシニカルでした。海外の識者の多くはどちら側にも味方せず、少々あきれた反応をしています。それは今回のように、海外から日本を見ているとよくわかるのです。
 
 声を大きくして、感情的に相手に語ることと、しっかりと自らの意思や意見を伝えることとは、そもそも違います。外交のような知的なやりとりが要求される場であれば、なおさらです。日本が不満に思っていることをきっぱりと伝えることは構いません。しかし、冷静に理論立てて明快に伝えればいいものを、普段は曖昧で総花的で、行き詰まると感情的という物事の運び方は稚拙です。
 
 これは日本を含め、アジアの人々がよく陥る落とし穴なのです。
 はっきりとものを言う時に声が大きくなっても構いません。英語の場合であれば、相手が話しているときにそれを遮って、ちょっとコメントさせてくださいと言っても構いません。しかし、そのとき実は、彼らは冷静に自らのロジックを組み立てて、知的に話そうと努めるのです。決して感情的なものの言い方をしているのではないのです。それを、日本人も含め多くの人が勘違いして、強く感情的に話せばよいと思い、そうできた人にすばらしいと喝采を送るのです。これが、大きな誤解につながります。
 河野外相の発言は、日本人の外交力のなさを露呈しています。アメリカ人などと仕事をしたことがある人は、よくアメリカ人同士が意見を闘わせているとき、あたかも喧嘩をしているかのように見えると感想を述べます。しかし、それは喧嘩ではなく、意見をテーブルの上に乗せて叩き合っているのです。感情的なのではなく熱心なだけなのです。だからこそ、後で食事などをするときは、さっきの議論はなかったかのように和やかにしています。
 
 特に、アジアでは欧米と異なり、目上の人への配慮も必要です。ナム駐日大使が年長者であれば、そうした最低限の礼を尽くすことで、逆に日本のしっかりとした対応力が評価されるはずです。そうした意味では、英語ではない日本語と韓国語の会話の場で、相手の話を遮ることも無礼かもしれません。「もともと韓国の方が」と言う人もいるでしょう。その議論には今回は敢えて立ち入りません。仮にそういう人の立場を支持し、もし日本が毅然としたいのであれば、別の方法できっぱりと物事を言わない限り、世界注視の外交舞台ではお笑い種となり、結局どっちもどっちだという印象を与えてしまいます。おそらくあの場面がテレビ中継されたのは、日本の世論を意識してのことでしょう。日本という内側の世論だけを意識した行為は、国益を放棄した売名行為といわれても仕方ありません。それこそが世論を迎合させようというポピュリズムなのです。
 

©Sankei Shimbun

日韓対立の解決に向けて合理的な未来志向となれるか

 「Well, what can we do? I simply hope you guys can solve this awkward puzzle without wasting time. (我々には何もできません。日韓双方がこの気まずい課題を、時間の浪費なく解決できるといいのですがね)」とそのアメリカ将校はにこやかに語り、その後少々ジョークを交わしたあと、お互いに次の相手との話し合いに移りました。
 合理的な未来志向。アメリカ人は得意でも、日本人や韓国人はこうした発想に立つことは極めて苦手なことなのかもしれません。困ったことに、似た者同士が争うと自体がより深刻になるわけです。グローバルなレベルで課題が山積する現代にあって、二つの経済大国のこうした実りのない対立を何年も続けていること自体、大きな損失だと多くの人が思わないとしたら、それこそ極めて危険なことと言えるのではないでしょうか。
 

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アラバマ州での中絶規制法案可決の背景にある脅威とは

Chris Aluka Berry/Reuters

“Most of the US state laws banning or severely restricting access to abortions have been voted on by male politicians. Should men have the right to rule on an issue that impacts women so intimately?”

(アメリカでの人工妊娠中絶を厳しく取り締まる法律に賛成する政治家のほとんどが男性。女性の人権に関わる問題を男性がコントロールする権利があるのだろうか?)
― BBCより

人工妊娠中絶は殺人か、女性の権利か

 アメリカ南部のアラバマ州で人工妊娠中絶を厳しく制限し、違反した者には刑事責任を課す法律が可決されました。このニュースは日本ではさほど大きく取り上げられていませんが、アメリカのみならず、欧米社会に強い衝撃を与えているニュースといっても過言ではありません。
 
 アメリカでは、人工妊娠中絶は殺人と同じく罪深い行為であると主張する人々が多くいます。彼らはキリスト教的な意識が強く、その宗旨に照らし、胎児の命も人の命として、中絶に強く反対(pro-life)するのです。
 それに対して、当然のことながら、子供を産むか産まないかを選択する権利(pro-choice)は女性にあるとして、中絶は守られなければならない女性の人権であるという人々も多くいます。彼らは、性的な差別を撤廃する上からも、中絶を選択する権利の必要性を訴えます。
 今回のヘッドラインのように、女性の体や人権に関する問題に男性が介入するべきかという議論も世界中で巻き起こっています。
 そうした議論の中で、アラバマ州でほとんどのケースにおいて人工妊娠中絶を違法とする法律が可決されたのです。
 ほとんどのケースとはどのような場合でしょうか。例えば、経済的に子供を養育できないケース、レイプやそれに近い行為で女性が妊娠したケースなどが「ほとんどのケース」に含まれるのです。

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識字率の高さを誇るには

Japan Literacy–
Literacy: definition: age 15 and over can read and write
total population: 99%
male: 99%
female: 99% (2002)

日本の識字率-定義(15歳以上で読み書きができる者)、全人口の99%、うち男性99%、女性99%(女性は2002年の統計)
 
-CIA World Factbook より

為政者による文字の独占と情報の操作

 ここに記された統計資料をみて、皆さんはどのように感じるでしょうか。
 いつの時代にも、為政者にとって最も都合の良いことは、情報をコントロールできることです。ネット時代になって、多くの為政者は嘆きます。どんなに情報をコントロールしようとしても、ネットによって様々なことがすぐに拡散してしまうと。しかし、人々は思います。ネットを利用することで、為政者はより情報を簡単に操作できるようになると。
 
 このどちらも真実です。為政者になるためには、選挙で勝って権力を握るか、現在の価値観に従って、官僚機構を登りつめ、そうした政治家をコントロールするかといった方法しかありません。どちらの道を選んだとしても、彼らが情報をしっかりコントロールでき、例えそれが虚構であっても、人々に恐怖や悦楽の媚薬を流布し続ければ、彼らはその地位にとどまることができるというわけです。
 
 情報を牛耳るための最も簡単な方法は、文字情報を独占することです。
 江戸時代を例にとります。江戸時代、日本は意外と識字率が高かったという人もいますが、それを証明できる具体的な根拠はありません。ただ、武士と町人が多く集まる江戸や大阪といった都市部と、地方とでは識字率に大きな差異があったはずです。さらに、男性と女性との間でも違いがあったことは推察できます。
 

受け手が考えるべきは流れる情報の量と質

 では、現代はどうなのでしょうか。確かに、日本の識字率は過去に比べて大幅に改善され、世界のトップレベルであることは事実です。しかし、文字を読めることと、現象や事象を分析し、批判する能力とは異なります。分析力、批判力の根本は、いかに情報が間断なく流通しているかということと大きく関係します。
 
 江戸時代、江戸の日本橋という限定した地域では、確かに識字率は8割を超えていたかもしれません。しかし、日本経済の中心であった日本橋にあっても、海外からの情報は殆ど入って来なかったのが鎖国時代の現実です。
 ですから、識字率は高くても、科学技術、社会制度はさほど発展しませんでした。逆に識字率が高い分だけ、「お上」は文字によって庶民をうまくコントロールできたのかもしれません。
 
 つまり、為政者にとっては、文字情報の伝達力を独占できれば最も都合が良いのですが、仮にそれが難しい場合、識字率が高いものの、情報の流通の風通しが悪ければ、実に都合よく社会を誘導できるというわけです。
 従って、現在の日本においても、日本語での識字率の高さだけを誇ってみても意味のないことがわかってきます。海外からの情報をどれだけバイアスなく受け取れるか。少なくとも、英語で発信される海外の情報にどれだけの人が直に接しているかという視点も重要なのです。
 
 80年代から90年代、日本は世界第二位の経済大国であると自負していました。そして、その地位を中国に奪われたとき、多くの日本人は心の中で思いました。中国には言論の自由もなければ、一部の富裕層を除けば大多数は貧困に苦しんでいると。質という面では日本の方がはるかに上なのだと。
 実は、GDPにおいて中国に日本が追い抜かれるまで、欧米の識者はそれと似たような批判を、GDPの高さを誇っていた日本人に向けていました。それはほんの30年前のことでした。実は、識字率と同様にGDPによる国の評価にも、こうしたトリックがあることを我々は知っておくべきです。
 
 確かに、日本は中国よりも言論の自由はあるでしょう。しかし、よく考えてみましょう。日本人は目に見えない言論統制に翻弄されていないでしょうか。英語力の低さ、海外とのコミュニケーション力の瑕疵によって、情報が日本に届いたときには、日本人にとって心地良いように変質されたり、選別されたりしていないでしょうか。ここのところを我々は真剣に考えるべきかもしれません。
 

「事実」に翻弄される時代、日本人はどうするか

 事実が何か、何が良いことで悪いことかといった情報は、あくまでも相対的なものです。江戸時代に事実であると思われていたことが、現在では荒唐無稽なものだという事例はいくらでもあるでしょう。また、中世には罪悪であると断罪されたことが、現在では人間の当然の権利として大切にされている事例も無数にあるはずです。従って、現代人が当然と思っていることも、未来には変化してゆくことは当然起こりうることなのです。
 
 現在最も危険なことは、溢れる情報の質の良し悪しを判断すること自体が困難な時代に、我々が生きているという現実です。相対的な事柄を絶対的な事柄に置き換えて、それをさも当然であるかのごとくネットで配信し、誘導し、ポピュリズムを煽ることも簡単にできる時代に生きているということを意識する必要があるのです。
 日本人もそうした意味では見事に言論統制されているのかもしれません。決して識字率やGDP、そして表面的な教育レベルだけで、我々の社会の質そのものを評価し、比較してはいけないのです。
 
 もちろん、このことは日本だけに言えることではありません。世界中で人類はこうした表面上「事実」といわれている事柄に翻弄されています。
少なくとも、我々にとって身近な日本という国の中においては、人々がこうした課題に真摯でありたいと思うのです。
 

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『 ネット時代の「取材学」: 真実を見抜き、他人とつながるコミュニケーション力の育て方』 藤井誠二 (著者) ネット時代の「取材学」: 真実を見抜き、他人とつながるコミュニケーション力の育て方』 藤井誠二 (著者)

人間関係が希薄になっているネット時代にこそ必要なコミュニケーション力を、「取材」のノウハウから学ぶ。
取材とは人とつながることであり、わかり合うことであり、通じ合うことです。言い換えれば取材のスキルには普遍性があり、メディア業界以外の日常でも「使える」ものなのです。ノンフィクションライターである著者が自らの取材経験を通じて身につけたコミュニケーション術をわかりやすく伝授します。津田大介氏との特別対談を収録!マスコミ志望の学生はもちろん、コミュニケーション能力を高めたい、全てのビジネスパーソン必読!

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