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つまずいた民主党の新星への期待

“Iowa Caucus Results Riddled with Errors and Inconsistencies.”

(アイオワ州党員集会の結果は、エラーと不確定要素が多すぎて謎のままとなっている)
― New York Times より

 出だしから大揺れに揺れ、党員の選挙結果がなかなかリリースされず不安を煽った、アメリカ大統領選挙・民主党のアイオワ州党員集会。選挙管理の不備で、投票結果が明快にならないままの状態が続いています。これは、民主党としては大きなイメージダウンです。
しかし今回、そうした状況の中でも、ブティジェッジ氏が僅差でサンダース候補を破り首位となったことは、多くの人を驚かせました。インディアナ州サウスベンドという地方都市の市長から、一挙に大統領候補に躍り出たブティジェッジ氏にどうして票が集まったのかを分析する必要がありそうです。

4年前のアメリカ大統領選挙から振り返ると

 まず、民主党には、今回の大統領選挙には絶対に負けられないという悲壮感があります。オバマ前大統領が8年間積み上げてきた様々な政策を180度転換し、独特の手法で内政外交にメスを入れ続けてきたトランプ大統領の再選だけはなんとか防ぎたいというのは、民主党の全ての候補者が抱いている危機感です。そして、この危機感は民主党候補の背景となるリベラル系のアメリカ人全ての悲願でもあるからです。
アメリカがかつてこれほど分断されたことはないほどに、トランプ政権は今までの余裕のある大国アメリカの姿を大きく転換させ、移民への厳しい制限、中国イランなどへの強硬姿勢などによって多くの人を驚愕させました。
 そんなトランプ氏の「アメリカ・ファースト」というスローガンに、製造業が錆つき、職を失い、かつ都市と地方との格差に苦しむ人々が支持を表明しています。アメリカ人の心の中に隠れている、移民への危惧や伝統的なアメリカの価値を喪失することへの危機感が、経済問題と合流し、トランプ氏支持へのうねりを作ったのです。
 このトランプ氏と同様に、同じく勤労者や地方の有権者の心を掴んでいたのは、大企業や富裕層に集中する富の分配を主張していた、バーニー・サンダース氏でした。前回の選挙では、アメリカの民主主義のあり方という建前よりも、仕事と地方、そして古くからの居住者が培ってきたアメリカの伝統とその延長での強いアメリカを求めようという、アメリカ人の本音が放出したのです。
 従って、前回の選挙のとき、もし民主党からサンダース氏が正式に立候補していれば、トランプ氏が大統領になることはなかったのではという悔いが、民主党の中にはありました。従って、アイオワ州党員集会の時には、オバマ政権の副大統領として知名度があり、いかにも民主党の顔であるといったバイデン氏よりも、ストレートに富の公平な分配を説くサンダース氏がトップになると多くの人は予想していたのです。ただ、彼には高齢であるという弱点がありました。それでもエネルギッシュにトランプ氏の再選阻止に挑む姿には、多くの人が好感を持ったはずです。政治のプロであるバイデン氏や、大都会の実業家としてニューヨークに地盤を持つブルームバーグ氏などは、やはりマンネリ化したプロの政治に飽き飽きし、大都会の実力者にふんぞり返って欲しくないと思う有権者の支持を得られないのではと多くの人が危惧したのです。

U.S. Senator Bernie Sanders of Vermont / United States Congress

サウスベンドから彗星の如く現れた若き候補者

 そんなサンダース氏をブティジェッジ氏が抑えたように見えたのが、今回の混乱したアイオワ州党員集会でした。
彼が市長を勤めたインディアナ州サウスベンドは、もともと民主党の地盤ではありましたが、製造業の工場の閉鎖が相次ぎ、失業者が増え、住宅地には空き家が多かった典型的な中西部の都市でした。一方、この街は学園都市でもあり、そんな錆びついた市街地と学園に勤務する人々との格差や政治意識への微妙な隔たりがある街だったのです。ある意味では、中西部のどこにでもある中核都市の一つでした。
 そんなサウスベンドの市長を8年間勤める間に、山積した都市問題を改善し業績をあげたのがブティジェッジ氏です。これは庶民レベルでの広い支持へとつながります。また、彼は高学歴で軍歴もあり、アフガニスタンにも従軍したという大統領になるための「パスポート」もしっかりと持っています。かつ、彼はまだ38歳という若い指導者です。
同時に、ブティジェッジ氏は自らが同性愛者であることを表明し、配偶者のパートナーの情報も公開しています。その上で、保守的なキリスト教徒の地盤ともいえるミッドウェストの市長として再選されているのです。
 1960年に当選は無理だと言われていたジョン・F・ケネディが当選したとき、彼は43歳でした。彼も高学歴で太平洋戦争に従軍した軍歴があり、かつ当時では異例のカトリック系(アイルランド系)の大統領でした。今ではオバマ大統領のように黒人系の大統領も登場し、これからは同性愛者の大統領候補が出たとしてもおかしくはありません。
おそらく、アイオワでの民主党大統領候補選挙でブティジェッジ氏への票が集まったのは、こうした背景によるのではないでしょうか。そして、この事実はトランプ大統領にとっても確かに脅威となるはずです。

Pete Buttigieg speaking at the 2019 California Democratic Party State Convention in San Francisco, CA. / Gage Skidmore

共和党支持者に潜む浮動票を獲得できるか

 問題は、民主党がアイオワ大会のように混乱せず、分裂することなく、一人の大統領候補の元にできるだけ早く力を結集することです。今、一般の共和党支持者の中にも、トランプ大統領への不安を抱く人は少なくありません。東西両海岸の都市部ではそうした潜在的な共和党支持者の多くが、トランプ大統領のみならずペンス副大統領へも強い違和感を抱いています。彼らが民主党の候補に投票することは十分に予測できるのです。
今のトランプ氏の政策を行きすぎた保守主義と捉えるのか、アメリカの原点回帰と捉えて歓迎するのか、共和党支持者の心理状態も微妙に揺れているのです。
前回のトランプ氏への弾劾裁判でも、そうした人々の声を代表するように、元大統領候補でもあったミット・ロムニー氏はトランプ氏批判を貫きました。
 それでも、現職の大統領として華やかなスタンドプレーを駆使するトランプ大統領は、いまだ有利に選挙戦に臨んでいます。さらに、トランプ大統領は「投票する有権者」の多い地方都市でしっかりと支持者の心を掴んでいます。
 同性愛者であることを公表し、若さと地方都市での業績を盾に彗星のように現れたブティジェッジ氏が、こうした人々の心の揺れをしっかりと捉らえることができるのか。今後の民主党の党員集会での動向に注目が集まります。

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『A Short History of America アメリカ史』西海コエン (著)A Short History of America アメリカ史』西海コエン (著)
アメリカの歴史を読めば、アメリカのことがわかります。そして、アメリカの文化や価値観、そして彼らが大切にしている思いがわかります。英語を勉強して、アメリカ人と会話をするとき、彼らが何を考え、何をどのように判断して語りかけてくるのか、その背景がわかります。本書は、たんに歴史の事実を知るのではなく、今を生きるアメリカ人を知り、そして交流するためにぜひ目を通していただきたい一冊です。

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