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見直したい「リスクをどこまでかけるか」という課題

It is still difficult to trust driving one of those cars close to a crowd, like a protesting crowd. We don’t really know how it will behave. Maybe it’s a 99.9999% chance that it will be acting good, but do we want to take that 0.0001% chance? Probably not.

(今でも雑踏の中で自動運転車がちゃんと動くかという難問がある。おそらく99.9999%はうまくいくだろう。しかし、0.0001%のリスクを我々がとるかというと、無理かもしれない)
― AI関連の技術者へのインタビュー より

もし日本で自動運転車が交通事故を起こしたら

 今、AI関係者の中で一つの議論が起きています。
 それは、これから10年以内に自動化した電気自動車をいかに走行させるかというリスクについての課題です。人間が普通に車を運転したとき、交通事故に見舞われる可能性は当然のことながら充分にあります。日本でも毎日車による悲劇が起きていることは日々のニュースを見れば明らかです。
 
 では、もし自動運転をする車が交通事故を起こしたら、どのようになるだろうというのが今回の課題です。自動運転にはAIの技術が欠かせません。そして、AIはコンピュータが自ら学習することで、様々な経験を蓄積し、その膨大なデータベースとリンクさせながら日々安全性を高めています。つまり、AIを駆使した自動車が追突事故を起こす確率は、ほとんどゼロに近づきつつあるといっても過言ではありません。しかし、仮に100万分の1の確率で不運が重なり事故が起きたとき、社会は自動運転車に対してどのような対応をするのだろうというのが、多くの専門家の悩みなのです。
 人間が起こしたミスであれば容認できるものが、AIがそれを起こせば、検証や改善のために膨大なエネルギーが注がれ、国の自動運転車への規制もさらに強化されてしまうのではないかと思うのです。これは、リスクを最小限にすることを最優先するビジネス文化を持つ日本では特に気になるところです。
 

入国時の検疫検査が物語る日本の「リスク嫌い」

 ここで、一つの事例を紹介します。それはコロナ対策で海外から入国する際の検疫検査の状況です。
 日本では入国にあたって出発地の陰性証明を取得することを要求し、それを事前に国が指定したアプリに入力しなければなりません。その折には、予防接種の証明も同時に入力しなければならないのは言うまでもないことです。ここまでは、ほとんどの国も同様の措置をとっています。
 
 しかし、問題はここからです。実は羽田や成田に到着した段階で、唾液による検査が再び実施されるのです。さらに、事前に入力したアプリ内の情報もチェックされ、その手続きには相当の手間がかかります。書類も多く、それらを全てパスした後に、別の人によって漏れがないか何度も再チェックが行われます。その上で、入国時の検査結果を待たなければならず、全ての手続きが終了するのに1時間から1時間半の時間がかかってしまいます。
 それが終わってから、ご存知の通り、入国審査と税関検査があります。入国審査は日本人の場合は自動化されていますが、税関では相変わらず、書類を見て人による質疑応答の審査が行われます。
 
 世界中の空港を見たとき、例えばゼロコロナを目指す中国などの事例はわかりませんが、多くの空港では出発時の陰性証明とワクチン証明を所定のアプリなどに入力するか提示すれば、そのまま何もなく入国できます。所要時間はたったの5分です。
 また、税関検査は現在の科学技術で言うならば、荷物をX線検査機に通し、空港を麻薬捜査犬が巡回すれば不正入国を防げるはずで、日本のように税関の検査台に荷物を置いてのやり取りをすべての入国者に対して行っているケースはあまり見たことがありません。
 
 どうしてこの事例を紹介したかというと、日本社会は世界の中でも最もリスクを嫌う傾向があるからです。よく考えれば、現地で陰性証明を取り、かつワクチン接種証明を携帯している人が、その後に機内で感染するリスクは極めて少ないはずです。それよりも、はるかに市中感染するリスクの方が高いはずです。しかし、海外からの感染者が万が一国内で発見され、その人が新しい変異ウイルスのキャリアであるということが報道されたとき、冒頭で紹介したAIによる自動運転車が事故を起こしたときと同じような責任追及が行われるのではないでしょうか。
 
 これに対して、アメリカの場合はリスクに対してあまりにも柔軟です。入国での検疫はほとんどなく、状況に応じて対応を変化させてゆくというのが彼らの常です。リスクは避けられず、リスクが顕在化することは、未来に向けての改善の最大のヒントになるというのが多くの人の考え方です。ですから、法的な規制も含め、アメリカではAIなどの新しい技術に対しても日本では考えられないほど迅速な判断を行い、進化の歯車をどんどん回してゆくのです。
 これがよいかどうかの議論はあるでしょう。しかし、日本が何かを変えることに対して、リスクを考えるあまり、かなりの時間を要してしまうことは我々の課題として考えなければならないはずです。
 

常に「責任」がまとわりつく日本のビジネス文化

 日本の場合、未来へのリスクについて考えるときに独特のビジネス文化が介在します。それは「責任」という考え方です。もしも、リスクが顕在化した場合、組織としてまず行われるのが、責任の所在の追及と社会への謝罪です。これは二つが一つのセットのように行われ、誰もがこうしたプロセスを当たり前のように考えています。
 欧米では、リスクについて個人の重大な過失と不正が介在していれば、それはそれで追及の対象になるでしょう。しかし、彼らはそのことと、プロジェクトの意義とを混同しないのです。プロジェクトが未来に向けて有益であれば、個々の責任とは別に置いて、あえてそのリスクを参考にして前に進もうとするわけです。
 この違いが、ビジネスの現場でのスピードや柔軟性に大きな影響を与えてしまうのです。
 
 今回、コロナによって閉ざされた外国人観光客の入国の門戸を開こうと、まずグループツアーに限った観光が許可されました。そして、その実施に先立って、政府の要請で旅行代理店等が実証実験をくり返し、入国者がルールを守るかどうかのモニターが行われました。しかし、よく考えてみれば、商用で入国した外国人が週末や仕事の後で日本を観光することは当然あり得ることです。グループツアーのみに限定することの根本的な意味が曖昧です。
 つまり、全てを完璧に行い、コントロールしてリスクをゼロにしない場合、何かが起きたときの責任の追及への懸念が先立ち、物事をあえて複雑怪奇にしてしまうのです。
 
 AIを駆使した未来型の技術競争に日本が勝ち抜くためには、こうしたリスクと責任への考え方を抜本的に見直してゆく社会づくりが必要なのでは、と痛感する今日この頃です。
 

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ジェームス・M・バーダマン、マヤ・バーダマン (著)
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