【海外ニュース】
North Korea has given the world ample reason to ask: threats of war, occasional attacks against South Korea, eccentric leaders and wild-eyed propaganda. As its nuclear and missile programs have grown, this past week with a fifth nuclear test, that concern has grown more urgent.
(New York Times より)戦争への脅迫、韓国への武力を行使、常軌を逸した指導者、そして過激な宣伝行為など、北朝鮮は世界に大きな課題を投げかけている。先週5回目の核実験を実施し、その懸念はもはや待ったなしの状態だ
【ニュース解説】
北朝鮮の核の問題は、確かに日本にとって脅威です。
脅威に対して、日本とアメリカとは双方で厳戒態勢をしき、極東地域での抑止力の維持に懸命です。もちろん韓国も同様で、日本との感情的な対立を越えて軍事連携への重い腰をあげようとしています。
しかし、こうしたときこそ、危機に煽られないように冷静に物事をみるべきです。まず、考えなければならないのは、自衛隊と安部政権の目指す国防軍とはいったいどこが違うのかということを。
北朝鮮の脅威の前には、自衛隊も国防軍も同様のリスクを背負います。また、防衛の装備の面からみても、この2つの組織にそう違いがあるとは思えません。
しかも、海外からみるならば、どちらも「武力」に変わりはなく、あえて翻訳すればどちらも同じ「Self Defense Force」ということになります。ただ、現在でもこの奇妙な翻訳を使っているのは、 日本の事情を熟知している人だけで、武力は武力に変わりはありません。海外では単純に Air force (空軍) とかArmy (陸軍、あるいは軍隊) などという言葉で表現しているにすぎません。
つまり、北朝鮮の脅威、中国との領海問題などでの緊張等で、自衛隊も国防軍も同様の機能をもち、海外での表現にも変化がないということになります。では、なぜ憲法を改正して自衛隊を国防軍に昇格させる必要があるのでしょうか。
しかも、世論の動向を考えれば、国防軍ができても徴兵制度に即つながるようにはならないかもしれません。
何が違うのかと、冷静に考えれば考えるほど、気になることがあります。それは、自衛隊を正式な軍隊にした場合、通常ならばその軍隊は軍法会議を持つようになるということです。
世界のほとんどの国は、軍隊の中で軍規を遵守するために、軍法会議 Court Martial を設定します。軍隊の中に独自の裁判権をおき、兵士の処罰規定を設けるのです。同時に、この処罰規定を実行するために Military Police が設置されます。米軍では MP とヘルメットに書いてある、軍隊の中の警察です。旧日本軍でこの MP の役割を担っていたのが憲兵です。
ここまで書けば、多くの人が、自衛隊を国防軍に変えたときの脅威について察知できるのではないでしょうか。
実は、MP、あるいは憲兵は、平和時には軍隊の中だけで機能します。
しかし、緊急時、非常時には、政府の職権で戒厳令を導入できれば、民間もこの憲兵の管理下におかれるのです。世界中で戒厳令を名目に、独裁政権が生まれたり、軍隊がクーデターをおこしたりした事例は数え切れません。どこか他所の国の物語と思っていることが、日本でも現実となるのです。
現在自衛官が犯罪をおかせば、通常の警察が逮捕し、検察が起訴し、民間人と同様の裁判にかけられます。MP、あるいは憲兵が軍隊の中の閉ざされた空間で兵士を軍法会議にもってゆくとき、果たして人権が尊重されるのかも気になるところです。
我々は短絡的に海外の脅威があるからといって、憲法を改正しようとか、軍隊をもとうとか思ってはならないのです。歴史的にみても、軍隊が純粋に自らの国家の防衛のために活用された事例は少ないのです。そして、銃の照準が、海外からの侵入者ではなく、国民に向けらたことも過去には多々あったことも忘れてはなりません。自衛隊を国防軍に改組したときに、こうした脅威が生まれるのだということを、ちゃんと理解して議論することが大切です。
ドナルド・トランプがもし大統領になったらと、アメリカ人のジャーナリストが真面目な顔をして私に語りました。そうなったら、アメリカは日本の防衛に熱心ではなくなり、もっと日本が自分で自分の国を守るようにと交渉してくるはずだというのです。そうなると、日本は中国や北朝鮮の脅威を前に、アメリカに頼ることができなくなり、国防軍を組成し、悪くすると核武装へと舵をきることだってありえるよと。
そんなばかなことがと思われるかもしれません。
でも、私が自衛隊と国防軍との違いについて質問したとき、この軍法会議と憲兵の保持こそがその違いだということに気づいた人はそういませんでした。つまり、本当のリスクを冷静に議論せずに、脅威や恐怖、怒りに人が流されたときは、「そんなばかな」という方向に国が動くことも過去に何度もあったことだとここに協調します。
北朝鮮が核実験を行うたびに、中国の艦船が日本の領海や排他的経済水域 exclusive economic zone に侵入するたびに、世論が硬化する現実をみたときに、ここに提起した脅威を我々は本気で分析すべきなのではないでしょうか。
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日英対訳
『海外メディアから読み解く世界情勢』
山久瀬洋二 (著)
IBCパブリッシング刊
海外ではトップニュースでありながら、日本国内ではあまり大きく報じられなかった時事問題の数々を日英対訳で。最近の時事英語で必須のキーワード、海外情勢の読み解き方もしっかり学べます。