バレンティン選手が陥った事件の背景
【海外ニュース】
Japan home run leader Balentien arrested in US.
(マイアミヘラルドより)日本のホームラン王、アメリカで逮捕
【ニュース解説】
まだ、デジタルカメラが普及していない頃のこと、フロリダで、日本人がトラブルに巻き込まれたことがありました。シャワーを浴びたばかりの子供二人と父親が、ベッドでふざけていた様子を妻が写真にとったのです。その写真を現像しようと、写真屋さんにだしたところ、業者が警察に通報し、警察が父親を拘束したのです。極めて円満な夫婦が、子供と遊んでいただけのことでした。
しかし、写真館と警察は、子供に対する性的虐待の可能性があるとして、父親を拘留、母親からも事情をききます。
その後、地元の関係者が聴取をし、両親は子供への接近を禁じられるという深刻なトラブルに発展したのです。
今回のバレンティンの拘束劇の一報に接したとき、私は真っ先にこのケースを思い出しました。
このトラブルの背景には、家庭内暴力 domestic violence や児童虐待 child abuse に悩むアメリカ社会の実態があるのです。もちろんこれは他国のことだと割り切れる問題ではないはずです。
Court records show Wladimir Balentien, 29, is facing a felony false imprisonment charge and a misdemeanor battery charge.
この文中の felony false imprisonment とは不法監禁罪を意味します。felony とは刑事事件の罪に問われていることを示す言葉。そして、misdemeanor battery charge もまた面倒な法律用語です。Battery charge は電池の充電ではありません。ここでいう battery とは相手を傷つけようとして故意に相手を殴ることを意味する法律用語。Misdemeanor とは、重大性はない不法行為を意味します。従って、バレンティン選手は、不法監禁と傷害罪に問われる可能性があるというわけです。16日現在、彼は保釈 bail される様子です。それは不幸中の幸いです。
警察は家庭内暴力という通報を受けた場合、調査がまだでも、ともかく現場に踏み込んで被疑者を確保するという、アメリカならではの徹底した対応によって、バレンティンは拘束されたのでしょう。実情はこれから明らかになるでしょうが、特にフロリダ州は、アメリカの中でもこうした対応が徹底している州として知られているのです。
子供が親の暴力や保護者義務の放棄で死傷した場合、役所の担当が事件がおきてしまうまで、その家庭の中に踏み込めず、悲劇を招いたという事例が日本ではよく報道されます。ストーカー行為でも日本の警察はなかなか動きません。
しかし、いくつもの深刻な事例を経て、アメリカでは悲劇を未然に防ぐために、警察や地方の関係機関にこうした特別の権限が付与されているのです。
そして、嫌疑が深刻な場合、親の子供への接近、夫婦のうち加害者と見なされる側の相手への接近も法律で禁止することが可能となります。
誤解が悲劇へとつながったあの日本人家族のケースがその後どうなったかは不明ですが、犯罪に対する容赦ないアクションが日常とされているアメリカでは、ちょっとした安易な行為がとんでもないトラブルへとつながることがあり得るわけです。
逆に、日本の犯罪を未然に防げない硬直した対応にも、問題ありと思うのは私一人ではないはずです。
Balentien grabbed his wife’s arm as she was running upstairs, police said, and then followed her into a bedroom and locked the door. The couple’s young daughter was also there. (バレンティンは二階へと逃げる妻の腕を掴み、ベッドルームにはいると、そこのドアをロックした。そこには夫婦の若い娘もいたと警察は発表) とありますが、子供がそこにいたこと、ドアをロックしたことが、彼をさらに不利な状況に追い込んだのかもしれません。
離婚間際の夫婦の感情的なやりとりが罪に問われるという、その状況は正にアメリカらしい対応だと思われます。であればこそ、アメリカではまず弁護士を双方ともたて、合法的に物事を解決するプロセスに全ての人が徹底して従うのです。
バレンティンの逮捕劇の背景にある、アメリカ社会の待ったなしの法治主義。そこには一長一短はあるものの、多くのことがあいまいな中で処理される日本とは異なる対応を、我々はここに見せつけられたのです。