タグ別アーカイブ: 移民

アメリカの移民社会を象徴する「テヘランジェルス」

“Iranian Americans or Persian American are among the highest educated people in the United States.”

(イラン系、あるいはペルシャ系アメリカ人はアメリカ合衆国の中でも最も教育レベルの高い人々である)
(Wikipediaより)

 
ロサンゼルスにシャリフとキャシーというカップルがいます。
シャリフは中東のレバノンにルーツを持つ名家の末裔で、彼の父親はイラクで生活していました。一方、キャシーはイランにルーツがあり、父親は以前イランを支配していたパーレビ国王の支持者でした。
 
二人の両親は共に祖国の政変によって投獄され、過酷な人生をおくりました。
「私はイラン人というよりペルシャ人なの。何世紀にもわたってイランで生活してきたペルシャの人々。そう我々は意識して、今のイランと自分とを分けているわけ。カリフォルニアには、そういったアイデンティティ(identity)を持つ人が多くいるのよ」キャシーはよくこのようにいいます。
 
イランは中東の大国です。そして、もともと王国でした。
国王であったパーレビは、アメリカとも良好な関係を維持しながら、西欧化を進めていました。
当時は冷戦の最中。ベトナム戦争につまずいたアメリカが、その間隙を縫うように中東に爪を伸ばしてきたソ連の動きを警戒していた頃のことでした。
伝統的にインドと友好関係を維持してきたソ連は、まず政治的な混乱に乗じてアフガニスタンに侵攻し、インドの西側、つまり中東の東端を抑えます。
 
そしてイランはアフガニスタンと国境を接しています。
当時イランには西欧化に反発する保守的なイスラム教徒が多くいました。彼らには急激な西欧化による貧富の差などの怨嗟もありました。そうした人々が立ち上がり、1979年に革命を起こし、親米政権であったパーレビ国王を国外に追放したのです。革命の暴徒はアメリカ大使館を占拠し、アメリカに対する強い憎悪を剥き出しにします。イランは西欧化途上の国家から、保守的なシーア派のイスラム教国へと変身したのです。
これはアメリカにとっては不幸なことでした。当時、アメリカはベトナム戦争の後の世論の揺れ戻しの中で、リベラルなカーター大統領が政権を担っていたのです。イラン革命はそんなカーター大統領の穏健な外交政策に大きな打撃を与えたのです。
 
硬化したアメリカの世論によって、アメリカに再びレーガン大統領による保守政権が誕生します。
レーガン政権は、イランに対抗するためにイランの西にあり、スンナ派サダム・フセイン政権に接近します。フセイン政権はシーア派のイスラム教徒への弾圧も進め、イランと緊張関係にあったのです。アメリカはさっそくイラクに援助を行います。その結果1980年にイラクとイランは戦闘状態になり、多くの血が流されたのです。ところが、その後サダム・フセインが増長し、アメリカが支援していたクエートを自国の一部と主張して侵攻したことが、その後のイラクとアメリカとの確執の原因になったのです。
 
一方、アフガニスタンを占領したソ連は、現地のイスラム教徒の抵抗にあい、泥沼の内戦になやまされます。最終的にソ連はアフガニスタンから撤退し、アフガニスタンにはソ連とアメリカ双方に強く反発するイスラム教過激派が支持するタリバン政権が生まれたのです。
アメリカは、イラクとイランの双方との関係を失い、アフガニスタンにまで影響力を喪失したことになります。
ところが、アフガン侵攻などの失敗もあってソ連も経済的に瓦解し、国家自体が崩壊したのです。その結果冷戦体制が終焉します。これはアメリカにとってはありがたいことでした。
冷戦崩壊後10年少々でアメリカは、タリバン政権が温存していたアルカイダが起こした同時多発テロ事件を契機に反タリバン勢力支援し、アフガニスタンを抑え、イラクにも侵攻し、サダム・フセイン政権を崩壊させたのです。
 
ロサンゼルスの西、太平洋に面したサンタモニカに向かうと、途中にウエストウッド Westwood という街があります。すぐ横は有名なビバリーヒルズです。
この一帯はペルシャ人街で、通称:テヘランジェルス Tehrangeles と呼ばれています。ここにはイラン系のみならず、中東系のレストランなどが並ぶ地域です。彼らの多くが、今回解説した70年代以降中東を見舞った混乱によってアメリカに移住してきた移民たちなのです。
 
「私たちはパーレビ氏(革命で亡命したパーレビ国王の息子)がイランに戻り、宗教と政治とを分離した民主的な国家を作ってくれることを祈っているの。まだ時間はかかるかもしれないけど」
キャシーの娘は今ドイツでAIの技術者として活躍しています。そして、彼女のボーイフレンドであるシャリフは、アメリカに移住してきたあと、アメリカへの留学生のための保険を扱う仕事で成功し、ロサンゼルスで裕福な生活をしています。彼は、イラクで民主化運動をしていたということでサダム・フセイン政権によって8年間も投獄されていた父親をアメリカに引き取り、その最期をみとりました。
 
アメリカには、複雑な国際関係によって祖国を失った人々が多く生活しています。アメリカは国際政治の舞台では超大国として利権を維持しようとしながら、一方でその結果流入してきた移民の才能を活かし、活躍の場を与えてきました。その結果成長したのが、シリコンバレーなどのハイテク産業でもあることを忘れてはなりません。
 

今、トランプ政権はこうした移民を制限しようとしています。しかし、海外からの移民をステレオタイプ(stereotype)によって一つの色に塗り替えてゆくことは、単純に誤った知識によって社会を硬直化させる結果しか生み出さないことが、このエピソードからもわかってくるのです。

* * *

アメリカ人と文化の壁を超えてビジネスをするために!

『トランスナショナル・マネジメント:アメリカ人に「NO」と言い、「YES」と言わせるビジネス奥義』山久瀬洋二 (著)トランスナショナル・マネジメント:アメリカ人に「NO」と言い、「YES」と言わせるビジネス奥義
山久瀬洋二 (著)
国家・民族・言語・宗教の境界を超えてアメリカ人と対等にわたりあう、80の絶対法則!
欧米をはじめ、日本・中国・インドの大手グローバル会社で100社4500人の異文化摩擦を解決してきたカリスマコンサルタントである山久瀬 洋二氏が、トランスナショナルなアメリカ人を正しく理解し、対等にビジネスするための奥義を、豊富な事例と図解でわかりやすく説明します。英語よりも、MBAよりも、もっとずっと大切なものがここにあります。

山久瀬洋二の活動とサービス・お問い合わせ

海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

アメリカ点描 — Uber と Ethnic、そしてトランプのパリ協定離脱

【海外ニュース】

Does Donald Trump still think climate change is a hoax? No one can say.
(New York Times より)

本当にドナルド・トラップは今で温暖化は嘘の情報だと思っているのかは、なんともいえないが。

【ニュース解説】

「いやね。時間があるときにアルバイトができるだろ。俺はリタイヤして家でゴロゴロしていた。それは寂しいことさ。でも Uber (ウーバー) に登録すれば、色んな人に会えて、仕事になる。しかも、好きな時に自分の車でお客を運んでお金にもなる。嬉しいし楽しいね」
 レンタカーを返したあと、そんな彼の車に乗って近くのスーパーマーケットで買い物をします。
「デイツ Dates (なつめやし) が積んであるよ。買っていこう。香辛料も」
友人がそういって、カートに中東の食品を買い込みます。
ロサンゼルスの南、ニューポートビーチの近郊。
このあたりは様々な移民が住んでいて、多くの人は豊かな暮らしをしています。
「考えてもみてよ。このあたりに住んでいる人は皆アメリカ社会に溶け込んでいるどころか、地域に貢献している。もし中東からの入国が制限されたら、ここにいる人の多くの家族や親戚と離れ離れになるじゃない」
友人とそんな会話をしながら、トランプの政策を批判しながら、スーパーマーケットでの買い物を終えます。

続きを読む

海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

移民パワーを知らずしてアメリカは語れない。イランの大統領選挙を注目する理由は?

【海外ニュース】

Rouhani on pace to win re-election in Iran.
(New York Times より)

イランでロハニー氏が順調に再選される

【ニュース解説】

 アメリカの世界戦略を理解することは、英語を学ぶ人にとって、海外の人との話題についてゆく上でも大切なことです。
 今回はイランでの大統領選挙のニュースを例にとって、解説をしてみましょう。
 そもそも、なぜイランの選挙がアメリカの外交戦略に関係するのかと思う人も多いかもしれません。その答えは、アメリカという国の成り立ちを振り返ればわかってきます。

 アメリカの外交を考えるとき参考にしたいのが、アメリカが移民国家であるという実情なのです。
 今まで世界で騒乱がおきると、そうした地域からアメリカに移民が流入してきました。例えば、1959年にキューバで共産革命がおきると、それを嫌った人々が大量にアメリカに流れ込みました。ベトナム戦争が終結し、当時の北ベトナムが南ベトナムを占領すると、多くの人がアメリカで新たな生活にチャレンジしました。
 そして、1979年にイランで革命がおきたときも、同様に大量の人々がアメリカに移住したのです。

 彼らに共通していることは、革命で倒された政権が元々アメリカの支援を受けていたことでした。イランの場合、革命以前はパーレビ国王が統治する王国で、アメリカはソ連への防波堤として軍事的にも経済的にも国王を支援していたのです。そうした中で、アメリカの影響を嫌い、イスラム教の伝統に基づく国家建設をスローガンに、民衆が蜂起したのがイラン革命でした。

続きを読む

海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

ドナルド・トランプはアメリカという潤滑油を維持できるのか

【海外ニュース】

Mr. Obama is leaving near the peak of his popularity, yet many of the voters who made Mr. Obama the nation’s first black president chose to replace him with a man who had peddled racially incendiary suggestions that he might not have been born in this country.
(New York Timesより)

オバマ氏はその人気のピークを迎えながらオフィスを去ろうとしている。アメリカ発の黒人の大統領を選んだ多くの有権者が、今度はオバマ氏がアメリカ生まれではないのではといいながら、人種問題を扇動しまわる人物を選んだにもかかわらず

【ニュース解説】

この記事は今回の大統領選挙を皮肉っぽく解説しています。
アメリカでは、大統領はアメリカで生まれた人物しかなれないと規定されています。大統領に選ばれたドナルド・トランプ氏は、以前オバマ氏はアメリカ生まれではないのではと発言し、初の黒人大統領を牽制したことがあったのです。
そして、この記事からも読み取れるように、今回の選挙の前後、アメリカは大きく分断されたといわれています。

続きを読む

海外ニュースの英語と文化背景・時事解説

ヨーロッパの理想と本音に左右されるシリアからの難民問題

【海外ニュース】

Migrant Chaos Mounts While Divided Europe Stumbles for Response
(New York Timesより)

難民の混乱がふくれあがるなか、ヨーロッパは分断され、対応に苦慮

【ニュース解説】

トルコの海岸に三歳のアイアン・クルディ君の遺体が漂着したことは、内戦の続くシリアからの難民の悲劇の象徴として、世界中に大きな衝撃を与えました。
既に一年以上前からこの難民の問題は、欧米では常に大きな問題として報道されてきました。元々、移民問題に鈍感な日本も、今回の悲劇でやっとマスコミが本腰をいれて報道をはじめたようです。

シリアや北アフリカを中心とした地域から戦火を逃れ、ボートに乗って海を渡ろうとする人々は既に30万人をこえ、収束のメドはたっていません。クルディ君の事例だけではなく、漂流の最中の海難事故による犠牲者も数えきれず、地中海に面した EU諸国ではその対応に苦慮しています。
さらにこの問題は、ギリシャなどの経済問題で揺れるEU全体に、新たな政治的な課題を突きつけているのです。

続きを読む