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「戦争とビジネス」、そして「グーグルとビッグデータ」

Delegations during signing of the Treaty of Versailles

“We hold these truths to be self-evident, that all men are created equal, that they are endowed by their Creator with certain unalienable Rights, that among these are Life, Liberty and the pursuit of Happiness.”

(われわれは、すべての人間は生まれながらにして平等であり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられているということは、自明なる真実であることを信じる。)
― アメリカの独立宣言より

パリ講和会議に見る「アメリカの世紀」

 ちょうど100年前の1月18日から、パリで第一次世界大戦後の体制を決定するための講和会議が開催されました。
 会議の名前は、パリ講和会議。日本を含む主要な戦勝国5カ国を中心に、世界大戦に関与した国々が集まり、戦後の世界のあり方について討議したのです。
 
 世界史に興味のある人ならお分かりのように、この会議では当初、敗戦国には賠償金を請求せず、恒久的な和平を実現するために国際連盟を設立することなど、様々な理想が討議される予定でした。
 しかし、実際に締結された講和条約には、敗戦国ドイツに対する高額な賠償金の支払いが盛り込まれ、国際連盟にアメリカ合衆国は参加しませんでした。その結果、経済的に破綻したドイツが国家主義に走り、ヒトラー政権を生み出したことは、多くの人の知るところでしょう。
 
 講和会議では、世界史で初めてアメリカの存在感の大きさが注目されました。20世紀は「アメリカの世紀」と呼ばれています。20世紀初頭に移民による豊富な労働資源と消費パワーに押され、さらに19世紀に開拓した広大な領土と、そこで根付いた産業に押され、アメリカは経済大国へと成長したのです。
 アメリカは世界の金融市場にも大きな影響を与えるようになります。もともとアメリカは、イギリスの経済的束縛から脱却しようと独立した国家です。ヘッドラインで紹介した独立宣言にも書かれているように、アメリカは「幸福を追求すること」を国民の基本的な権利であると、世界に先駆けて保障した国家です。この「幸福を追求する権利」の保障こそが、アメリカ人の資本主義精神の背骨となるのです。言い換えれば、アメリカでは経済活動、資本主義活動は、国民の根本的な価値観に沿った行為であるといえましょう。
 
 さらにいえば、こうした経済的発想こそが、アメリカ人のいう「business」という感覚なのです。例えば、日本人は露骨にお金の話をすることを伝統的に忌避する傾向があります。ですから、「business」感覚をむき出しにせず、商業活動においても物事を婉曲に進めることを求めがちです。しかし、20世紀になって、そうした「business」的な風土を持つアメリカが世界経済に大きな影響を与えだすと、人々は以前よりも資本主義を信奉し始めるのです。
 

John Trumbull: Declaration of Independence

資本主義が推進する「戦争」という名の「ビジネス」

 第一次世界大戦は、そんな経済的な論理の影響を強く受けた、最初の戦争といっても過言ではありません。アメリカの金融界は戦争に対して投資を行い、その投資した資金の回収を強引に進めます。特にイギリスやフランスへの投資が無駄にならないようにと、アメリカは経済界の圧力の下、伝統的な孤立主義を打ち破って自らもヨーロッパ戦線に参戦します。そして、戦争が終わると、敗戦国からの賠償金の取り立てによって投資の回収を急ぎます。当時のアメリカのウィルソン大統領が提唱した理想主義も、金融界のそうした動きの中で封じ込められてしまうのです。
 
 それ以降、「戦争はビジネス」という一つの常識が生まれました。戦争は国家による巨大な消費行動です。武器のみならず、ありとあらゆる産業が戦争に動員されます。このことが、金融業界や資本家を益々豊かにしてゆきます。
 戦争は、必ずしも有利に展開するとは限りません。しかし、仮に味方が不利であったとしても、生産活動やそれに対する投資には追い風になるかもしれないのです。ある時期まで、ヘンリー・フォードをはじめとしたアメリカの経営者の多くが、ヒトラーを支持していたことは有名な話です。彼らの心の中によぎったのは、こうした資本主義の理念が、ソ連によって打ち砕かれることへの恐怖でした。ドイツに共産主義の浸透を阻止する壁となって欲しかったのです。同時に、独裁国家によって急成長を遂げるドイツの軍備、そして経済への投資にも興味があった彼らにとって、ヒトラーを支持することは、一石二鳥の効果があったのです。
 
 その後、ヒトラーの政策が過激になり常軌を逸してくると、彼らの態度も一変します。しかし、この「戦争とビジネス」との関係は、第一次世界大戦以後、現在に至るまで継続しているのです。ベトナム戦争はアメリカに苦い教訓を与えました。しかし、当初ベトナム戦争に消極的であったケネディ大統領を押し切って、泥沼の内戦への介入を強く求めたのは、アメリカの経済界だったのです。中東でも同様のことがおこります。「戦争とビジネス」、それは今もなお切っても切れない、人間の欲望の追求のテーマとなっているのです。
 
 もちろん、こうした発想にブレーキをかけようと、人々が良心に訴えてきたことは事実です。しかし、戦争とビジネスとの相乗作用によって世界がより便利になり、軍事技術が通常の産業に転用され、人々の「幸福を追求する権利」への甘い蜜となったとき、我々はともすれば妥協をして、そうした繁栄を享受しようとしがちです。
 
 21世紀に入り、「戦争とビジネス」との関係は新たな段階へと「進化」しました。それは、サイバーセキュリティという新たなビジネスが、戦争やそれを遂行する国家運営と手を組んだことです。
 世論を操作するために、グーグルなどによるデータが、国家のニーズに沿って活用されつつあることも懸念材料です。個人の様々な消費行動や趣味趣向がビッグデータに集積され、それが世論操作へ活用されようとしています。選挙はいまや、ネットビジネスにおける巨大な市場の一つです。民主主義を操るツールとしてSNSやAI、さらにビッグデータが活用されていることは周知のことです。しかし、それが第一次世界大戦以降の「戦争とビジネス」との婚姻関係が進化し、モンスター化した結果であることに気づいている人は少ないかもしれません。
 

2019年、「戦争とビジネス」はどこへ向かうのか

 18世紀から19世紀にかけて、人々はアメリカでの綿花の生産を支えるために、進んで奴隷貿易に投資しました。奴隷を捕獲し輸出したのは、アメリカの資本家だけではありません。それによって利益を享受した、イギリスやオランダも奴隷貿易の恩恵にあずかったのです。そのモラルが問われたとき、人々はさらに巧妙に民主主義やグローバリズムの衣を被りながら、「戦争とビジネス」との婚姻を進めました。そして現在、その婚姻関係の蜜月を享受しようと、新たなツールであるインターネットやAI技術に目をつけているのです。
 
 ビジネスは、人々に幸福と不幸を同時にもたらす諸刃の剣であることを、我々は今まで以上に知っておく必要があるわけです。
 パリ講和会議からちょうど100年経つ今、我々は改めて「戦争とビジネス」との関係に注視するべきなのです。
 

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『The Mark Zuckerberg Story (Facebookを創った男: ザッカーバーグ・ストーリー)
』トム・クリスティアン(著)The Mark Zuckerberg Story (Facebookを創った男: ザッカーバーグ・ストーリー)』トム・クリスティアン(著)

世界を席巻する巨大メディアFacebook創始者マーク・ザッカーバーグ。最新の話題をシンプルな英語で読む!ビジネスシーンで使えるボキャブラリーも満載。
利用者が全世界で増え続ける交流サイト最大手”Facebook”のアイデアは、米ハーバード大学の寮の一室からはじまった。2004年のことだ。その部屋に住む男子学生の名前は、マーク・ザッカーバーグ。数年で巨大メディアを生み出すことなど想像もしない19歳の学生だ。その若き実業家ザッカーバーグの大学時代の活動から、最新の超大型企業買収までを平易な英語で綴る。

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海峡と川を隔てた明暗が南北問題を浮き彫りに

“An 8-year-old boy from Guatemala died in United States custody early Christmas Day, the second death of a child in detention at the southwest border in less than three weeks, raising questions about the ability of federal agents running the crowded migrant border facilities to care for those who fall ill.”

(グアテマラからの不法移民として、アメリカ当局に収監されていた8歳の少年がクリスマスの日に死亡。アメリカ南西部の国境地域では、この3週間未満で2件目のできごととなる。このことは、混み合った施設で連邦政府の当局者が不法入国者の健康問題などへ対処する能力に限界があるのでは、という疑問を投げかける)
 
―NY Timesより

 ヘッドラインで紹介した記事を分析するために、まずはアメリカを離れてみます。
 北アフリカの西の端、スペインと海を挟んで対峙するモロッコを飛行機で発てば、30分もしないうちにヨーロッパ上空に至ります。そこにあるジブラルタル海峡は、世界の南北問題を象徴する海峡です。
 一方、メキシコとアメリカとの国境に流れる川、リオ・グランデの川幅はそれほど広くありません。メキシコとアメリカとの国境は、ここに報道されている通り、移民の受け入れをめぐるもう一つの南北問題を象徴する現場となっています。

北アフリカ:大陸から海峡を渡れない人々

 さて、北アフリカでいうと、サハラ砂漠の各地にはほぼ無政府状態の地域があります。不安定な政情と経済難によって、難民が比較的安定したモロッコに流れてきます。
 モロッコ政府は、隣国のアルジェリア政府が、モロッコ南部の民族運動を支援しているということで、国境の往来を厳しく制限し、政治的混乱を避けようとしているのです。
 それでも、多くの人がモロッコの主要都市に流れてきます。そして、さらにヨーロッパを目指して何人もの人が海に出ます。しかし途中で船が難破し、溺死者が絶えません。
 
 そんなモロッコの観光地マラケシュで、アブドゥール・マシャーリは、ホテル付きの運転手をしています。3人の子供をかかえ、ホテルを訪れる海外からの観光客を名所旧跡に連れて行くのが彼の仕事です。彼の給与は月収5万円。欧米やアジア各地からやって来る観光客は、ホテルに1日約1万5千円のドライバー料金を支払っています。アブドゥールは、マラケシュの生れ。道路の脇で物乞いをするアフリカ大陸の奥地からやって来た難民を横目に見ながら、彼は彼で必死に生計を立てています。
 
 実は、彼は若い頃に法律を勉強し、ドイツへの留学を試みました。
 しかし、アフリカからの移民への条件が厳しくなる中、ビザがおりずに夢は挫折。一方、彼の友人はドイツへの留学ビザがおり、今ではハンブルクで生活しています。彼の収入はアブドゥールの13倍。アブドゥールはビザがもらえないまま、マラケシュを一歩も出ることなく、家族を支えています。今の夢は、貯金をしてメッカへの巡礼を行うこと。彼は敬虔なイスラム教徒なのです。
 

アメリカ:メキシコとの国境と豊かな暮らしの間で

 そうした中、トランプ大統領が、ヘッドラインで紹介したニュースにコメントを出します。
 アメリカとメキシコとの国境にたどり着いた子供が入国を拒否され、衰弱し死亡した事件について、「それは民主党が国境を開いてくれるという期待を与えるからだ」と、子供の死を民主党のせいにしたとして物議を醸しているのです。
 このニュースの通り、メキシコとアメリカとの国境にたどり着く人々は、メキシコ人とは限りません。中米各地から文字通り両手で持てるものだけを携え、ときには裸足で歩いて夢の国アメリカを目指します。モロッコから海峡を渡ろうとしている人々の多くが、モロッコ人ではない状況と似通っています。
 
 アンドレア・ラモレスは、テキサス州に住むメキシコ系アメリカ人です。
 彼女はトランプ大統領を支持しています。彼女の両親はメキシコからの移民で、テキサス州のサンアントニオで不動産業を営み成功しました。娘は同じくメキシコ系の夫と両親の事務所のあとを継いでいます。
 アンドレアは、これ以上不法移民が増えて、治安が悪くなり、メキシコ系移民への偏見が強くなることを危惧しているのです。そして、自分自身はアメリカ人として、アメリカの利益を考えてトランプ大統領に投票したと語っています。
 彼女は、貧しい中米の人々には同情するものの、そうした人々をアメリカが引き受ける必要はないと考えています。それは、モロッコでドライバーをするアブドゥールと同じ考え方です。海峡、そして川を渡ることができた人々と、そうでない人々との明暗があちこちで見えてきます。
 
 モロッコやメキシコを経由して、豊かな地域を目の前に見ている人々。海峡や川の向こう側にたどり着けば、10年、あるいは20年も頑張れば、それなりの生活ができるようになるはずだと彼らは信じています。それよりも、元の暮らしに戻ることが、荒廃した彼らの故郷に戻ること自体が不可能なのです。
 

南北問題に揺れる政治、投じた一票の先に見える世界は

 アブドゥール・マシャーリは、そんな難民の姿を見つめながら、ドイツに渡れなかった自分を悔やむ時間もなく、豊かな国からやって来る観光客のドライバーとして家族を養っています。子供達にはなんとか海外で豊かになってもらいたいと思いながら。観光客はモロッコを楽しむと、ニコニコしながら彼と握手をし、空港からヨーロッパに戻って行きます。ほんの2時間も飛行機に乗れば、そこは安全で清潔で、便利な先進国です。観光客が一日で使う遊興費が、アブドゥールには一月分の給与にあたるのです。
 そして、テキサスに住むアンドレア・ラモレスは、民主党の反対にあって停滞しているメキシコとアメリカとの国境の壁作りが進み、自分たちの街にこれ以上貧しい移民が流れてこないよう、政治活動に参加しています。
 
 そうした最中に、グアテマラからメキシコを経由し、はるばるアメリカにたどり着いた子供が死亡するという悲しい事件が起きたのです。
 このような悲しい現実がありながらも、アメリカには豊かさを求めて今でも世界中から人が押し寄せます。その中から将来のアメリカを支える優秀な人々が生れ、育つのもまた事実です。
 
 右傾化が続く世界にあって、南北問題は世界の政治に大きな影響を与えています。
 2019年にフランスとドイツがどのように変化するか。そんなヨーロッパの変化に、モロッコなどのイスラム教諸国がどのように対応するか。そして、トランプ政権はどのように推移するか。それが文字通り、アブドゥール・マシャーリやアンドレア・ラモレスの投じる一票にかかっているのです。
 

* * *

『アメリカ史 / A Short History of America』西海コエン (著)アメリカ史 / A Short History of America』西海コエン (著)

アメリカの歴史を読めば、アメリカのことがわかります。そして、アメリカの文化や価値観、そして彼らが大切にしている思いがわかります。英語を勉強して、アメリカ人と会話をするとき、彼らが何を考え、何をどのように判断して語りかけてくるのか、その背景がわかります。本書は、たんに歴史の事実を知るのではなく、今を生きるアメリカ人を知り、そして交流するためにぜひ目を通していただきたい一冊です。

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中間選挙を前に分断されるアメリカ社会

“As President Trump and his allies have waged a fear-based campaign to drive Republican voters to the polls, far right communities have parsed his statements. Looking for hints of their influence.”

トランプ大統領が、共和党への投票につなげるために恐怖心を煽るキャンペーンを進めてゆくなか、極右のコミュニティは大統領の発言をいかに利用して自らの影響力へつなげようかと策を練っている。
(New York Timesより)

中間選挙を直前に控えたアメリカ。その状況を理解するために、ここに一つの議論のサンプルを紹介します。
 
まず、一人の人が発言をはじめます。
彼の名前はロバート。彼はトランプ大統領を支持する典型的な人物です。年齢は50代になったばかりの男性で、元工場労働者。妻は地元の会計事務所で長年、会計士のアシスタントとして働いてきました。二人が住んでいるのは、アメリカの中央部にあるミズーリ州のとある小さな町です。

「我々は、週末には教会に集まり、家族を大切にし、勤勉に働く。この教会に集まるのはみんな、そんな仲間だよ。そんな伝統が崩れてゆく。外国から文化も価値も共有できないような連中がきて、我々の生活の中に入り込んでくる。私に言わせれば、今そうした連中によって、我々が培ってきたアメリカ社会が蝕まれているように思えてならないんだよ」

 
この発言に対して、一人の女性が反論します。彼女はシェイリーという名前で、サンフランシスコに住み、現地の大学の図書館に勤務。夫はシリコンバレーのハイテクベンチャーで、マネージャーとして勤務しています。

「あなた方だって、移民の子孫じゃなかったんですか?アメリカは多様な移民が集まることで、知恵も集まり、アメリカならではの平等な価値観が育まれているんですよ。それを閉ざしてしまえば、アメリカはアメリカじゃなくなるし、何をいっても今まで何年もかかって培われてきた、人権や自由を尊重する社会が壊されてしまうと思うんですが」

 
ロバートは、彼女のこの発言に即座に反論します。

「それじゃあ、我々の生活はどうなんだい。私が勤めていた工場は、海外の安い労働力に押されて閉鎖されてしまった。自分たちの生活を守ろうと思っても無理だよ、これでは。しかもそんな国からの移民まで受け入れるって、どういうことだい。我々は自分たちの地域社会を守りたいんだよ」

 

「今、サンフランシスコをみればわかるけど、ここには世界中の人が集まっている。そして、実際に世界中の経済は繋がっているんですよ。あなたの工場が閉鎖されたのは気の毒だけど、資本主義の世の中は、知恵や工夫のある企業が勝ち抜いてゆくのは当たり前のことでしょ。今、アップルグーグルといった世界を牽引している企業は、そんなアメリカ社会で成長した企業なのです。しかも、そこには世界中から優秀な人が集まってくる。肌の色も、宗教も、そして風俗習慣も異なる人々が集まって、我々と一緒になって世界中で販売できる競争力のある商品を作ろうとしている。そのためにも、世界に開かれた社会こそが、これから必要とされているんじゃないんですか」

 
ロバートは、シェイリーの一言一言が気に入らないようです。

「うんざりだよ。グーグルにしろ、アップルにしろ、もっとアメリカ人を雇用するべきだよ。そして、アメリカの企業から部品を買うべきだ。国家が自分の国の利益を考えて、何がいけないんだろう。海外のものには関税をかけ、自分の国の産業を守ろうとするのは当然じゃないか。今の大企業には、そうしたモラルはまったくないよ。アメリカを第一に考えてこそ、我々の生活が守られるはずだと思わないのかい。愛国心がないんだね。君たちには、あの伝統的なキリスト教徒としての家族意識やコミュニティ意識が欠如しているんだよ。それは、あの耳にタコができるほど聞き飽きた、グローバルというまやかしの言葉を使い続ける大企業の連中にもいえることだ。アメリカは元々、偉大な国家だった。でも、君たちによって汚された。アメリカは世界一の超大国だよ。それは、我々のようにアメリカ人としての伝統を守ってきた仲間が創ってきた国なのさ」

 

「一体いつの時代のことを言っているんですか。例えば、アメリカだけで、全ての部品が賄えて、衣食住に必要なものが調達できるとでも思っているのですか。アメリカが他国に関税をかければ、それはあなたが買い物をするときの物価に跳ね返ってくる。それって単純な論理じゃないですか」

 
ロバートは、彼女の話を途中で止めます。

「まてよ。我々だって、世界のどこの連中より素晴らしいものを作れるよ。中国でも日本でも、自分たちだけに都合のいい規制に守られて、安い物をこちらに送り込んでくる。アメリカ人は寛容だったのさ。お人好しといってもいいほどにね。メキシコなんて、自分の国の国民を食べさせてゆけない責任を、こちらに負わせているじゃないか。こんなことをしていたから、あのイスラム教徒の悪魔たちが、セプテンバー11のようなことまで起こしてしまった。我々アメリカ人は、そんな外国の影響から独立して、実直で誠実な暮らしに戻るべきだ。昔のように勤勉に働いて、しっかりと我々のために我々でものを作るんだ」

 
シェイリーはうんざりしたような顔をして、ロバートの話を遮ります。

「あなたが移民を排斥して、アメリカが閉ざされた国家になれば、それこそ、アメリカは偉大ではなくなるのよ。寛容の精神もなく、昔のように他所からきた人を差別する社会に逆戻りすれば、アメリカ社会そのものが萎縮して、経済的にも貧困になるはず。しかも、キリスト教徒の伝統っていうけど、信教の自由は社会の基本ですよ。あなた方だって、祖先はプロテスタントとし迫害を受け、宗教の自由を求めて、アメリカにやってきたのでしょ。そのことをお忘れなの?」

 
今、アメリカはこの二人のように、全く相容れない立場と考え方に分断されているのです。それは、過去にはなかったような敵愾心までお互いに対して抱いています。
150年以上前に、アメリカは南北に分断され南北戦争を戦いました。今は、そうした境界線が人々の心の中に築かれて、新たな分断を生み出しています。
人々が最も危機感を抱いているのは、トランプ大統領を支持する人と、そうでない人との間に、こうした全く妥協を許さない分断が起きていることなのです。
 

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アメリカ人と文化の壁を超えてビジネスをするために!

『トランスナショナル・マネジメント:アメリカ人に「NO」と言い、「YES」と言わせるビジネス奥義』山久瀬洋二 (著)トランスナショナル・マネジメント:アメリカ人に「NO」と言い、「YES」と言わせるビジネス奥義』山久瀬洋二 (著)
国家・民族・言語・宗教の境界を超えてアメリカ人と対等にわたりあう、80の絶対法則!
欧米をはじめ、日本・中国・インドの大手グローバル会社で100社4500人の異文化摩擦を解決してきたカリスマコンサルタントである山久瀬 洋二氏が、トランスナショナルなアメリカ人を正しく理解し、対等にビジネスするための奥義を、豊富な事例と図解でわかりやすく説明します。英語よりも、MBAよりも、もっとずっと大切なものがここにあります。

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ビジネスの未来のためにも求められるco-existenceという概念

“Nobody in Europe will be abandoned. Nobody in Europe will be excluded. Europe only succeeds if we work together… Germany wants peaceful co-existence of Muslims and members of other religions.”

(ヨーロッパの誰も見捨てられず、排除されない。ヨーロッパの試みは多くの人が一つになるときに、成功するのだ。そしてドイツはイスラム教徒と他の宗教のメンバーとの共存を望んでいる)
Angela Merkelのスピーチより

“interactive”な市場から取り残される日本

今、ビジネスはグローバル化されていると誰もがいいます。
実は、ビジネスもグローバルとローカルとに二分され、そこに明らかにギャップや格差が生まれています。
ただ、これからのビジネスでは、何を行うにしろ、AIやInternet、MaaS (Mobility as a Service)といった未来型のネットワークがなければ、市場から取り残されてゆくことだけは確実でしょう。例えば細かいことですが、いまだに日本の鉄道の中ではクレジットカードが使えない駅が多く、実は新幹線でも車内で切符を変更してもらうときなどは、キャッシュだけの応対です。オンラインどころではありません。これを海外の状況と比較すると、将来の日本に強烈な不安を覚えます。
 
海外でのサービスはますますinteractive、すなわち双方向になろうとしています。ユーザーとサプライヤーが双方のニーズを交換し、サービスのネットワークを広げるのです。例えば、ネットで航空機を予約すれば、それに連結した鉄道やホテル、さらには現地のレストランでの夕食の予約や機内食の好みまで、様々なサービスが受けられるように、国際間でネットワークすることがMaaSの目指すところです。そこには、Uberやそれに類するタクシーやバスなどのサービスも含まれます。もしかすると、長距離を移動してきたビジネストラベラーが、空港に到着すれば、そこに自動運転のタクシーやカーシェアリングサービスが待機していて、それを利用すれば、そこに注文していたサンドイッチとコーヒーがあり、それを楽しみながらホテルへ、ということも近未来にはあり得るのです。
 
日本の弱点は、実は中国と似ています。それは、日本は島国で物理的に他国と閉ざされ、さらに隣国とも良好な関係が築けないのです。ですから、ヨーロッパなどのインタラクティブなサービスへの発想に限界が生まれ、しかもその限界をよしとする行政の規制が根強いのです。中国は、大陸国家ですが、民主化を恐れ、国が海外からの情報とそのインタラクティブな流通を極度に規制しているという課題があります。ですから、現在中国国内がいかに電子化され便利になっていても、海外からの知恵を自由な発言と共に取り入れない限り、いずれ技術力にも中国ならではのガラパゴス現象がおきるはずです。
日本も中国も、双方にこうしたジレンマを抱えながら未来を見据えているのです。

“co-existence”を揺るがす”identity crisis”

現在の市場社会で、世界の動きに対応するためには、人々の知恵の共有とネットワーク、そして知識そのものの流通に注目しなければなりません。サービスの必要なところに、世界中から知恵や人材が集まり、ニーズのあるところに、世界中からビジネスのオファーがあるような社会造りが必要なのです。それには、日本でもある程度の移民の受け入れと、出入国、さらには就労に関する自由化が不可欠です。
 
この課題に古くから取り組んできたのがヨーロッパです。ここに紹介したドイツの指導者メルケルの言葉はその背景を象徴しています。
ヨーロッパやアメリカでよく話題になる概念に、ここで彼女が語ったco-existenceという言葉があります。それを直訳すれば「共存」となります。
今、世界ではこのco-existenceが大きなテーマになっています。つまり、移民や異なるジェネレーション、さらには同じ民族であっても異なる価値観を持った人と、いかに共同して社会を形成してゆくか、ということがそのテーマになります。
 
ヨーロッパやアメリカの場合、この課題が社会を揺るがしています。
例えば、ロンドンの例をみるならば、そこには多くのイスラム教徒の移民がいます。彼らは伝統的なイギリスの生活習慣とは全く異なった毎日を送っています。日本では「郷にいれば郷に従え」という言葉がありますが、そこに宗教が絡むとそう簡単にはいきません。
例えば、学校での給食を考えても、食べられるものに大きな違いがあります。祈りの時間も考えなければなりません。さらに、断食月といわれるラマダンの期間は、日の出から日没まで食事ができません。女性の地位に関する常識も、時には大きく異なります。
こうしたことは、別にイスラム教徒に限ったことではありません。ベジタリアンとして生きている人は、レストランでの食事のメニューのみならず、そこで使用されている目に見えない材料にも気を配ります。レストラン側でも、こうしたベジタリアンや様々な宗教のニーズにあったサービスが求められます。それは、ちょうどアレルギーのある人が、その素材に対して気をつかうことと同じです。
 
こうした、風俗習慣の異なる人が共存するときに起こりがちなことが、そこに元々住んでいた人々を見舞うidentity crisisアイデンティテイ・クライシスです。
自らの伝統的生活文化が蝕まれてゆくような危機感に苛まれるのです。それは、そこに新たに移住して来た人々にとっても同様です。その典型的な事例がアメリカにあります。
アメリカは、最初に大量に移住してきたプロテスタント系の白人が社会規範を作りました。後発の移民達は、宗教的な儀式や風習は維持できても、ビジネス文化や社会常識においてプロテスタント系のアメリカ人の作り上げた常識に従って生活をしてゆかざるを得なかったのです。
しかし、移民がより多様になった現在、従来の風習や常識そのものが変化を強いられています。こうしたことへの不安や苛立ちが、社会に新旧双方のグループに排他的な意識を育むのです。ヨーロッパやアメリカでおきるテロ事件の多くが、海外から送られてきた犯人によるものではなく、自国に育ち教育を受けた移民グループや伝統的な価値に固執する人々によって起こされていることに注目するべきなのです。

日本に求められる”cultural awareness”

こうしたidentity crisisの軋轢を乗り越えて「共存」を模索するときに使われるのがco-existenceという言葉なのです。co-existenceの基本はdifference、つまり人との相違を肯定すること。そしてcultural awarenessという概念を常に意識することになります。cultural awarenessとは、他の文化への受容性と寛容性を抱くことを意味します。
 
日本の場合、社会においてまずグループでの発想が優先される傾向にあるために、difference という言葉はともすればネガティブな意味で捉えられます。
「彼は変わっている」といえば、それはその人に対する批判と捉えられます。しかし、co-existenceという課題と取り組んできた欧米ではdifference は良いことだという意識が主流です。その土台の上に、cultural awarenessというアプローチが存在するのです。
 
こうした事例をみるにつけ、移民や異文化摩擦へ柔軟に対応する方途の模索が、今後の日本の競争力を担う上でも求められていることがわかります。ここに記したco-existence, difference, cultural awareness, そしてdiversityについて考えることが、世界の知恵を流通させ、日本の中にもそれを導入し、応用し、創造的な技術を芽生えさせる社会的な知恵を育む原点になるのです。
島国国家日本が、精神的な島国から脱出せざるを得ない現在、こうした海外の動きや現実を直視することが強く求められているのです。
 

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外国人とビジネスをするためのテクニックを学ぶなら

『異文化摩擦を解消する英語ビジネスコミュニケーション術』山久瀬洋二異文化摩擦を解消する
英語ビジネスコミュニケーション術

山久瀬洋二、アンセル・シンプソン (共著)
IBCパブリッシング刊
*山久瀬洋二の「英語コミュニケーション講座」の原稿は本書からまとめています。文法や発音よりも大切な、相手の心をつかむコミュニケーション法を伝授! アメリカ人のこころを動かす殺し文句32付き!

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アメリカの中間選挙にも影響を与えるアイルランドの動向とは

Irish Timesで取り上げられているPro Choice運動勝利の瞬間(Irish Timesインターネット版より)

“Ireland Votes to End Abortion Ban in Rebuke to Catholic Church”

(アイルランドはカトリック教会を非難。中絶の権利を国民投票で認める)
New York Timesより

ニューヨークは今メモリアルデイ Memorial Day の連休 long weekend で、多くの人が街を離れています。
そんな郊外に向かう渋滞を整理する警察官の多くはアイルランド系です。彼らの祖先は、19世紀中盤以降、本国の飢饉や貧困に追われて海を渡ってきた人々でした。彼らはほとんどがカトリックで、元々プロテスタント系の人々の多いアメリカでは社会の底辺で、一時は差別に苦しみました。
現在アメリカにはアイルランド系の移民が3600万人も生活しています。そのため、多くのアメリカ人がアイルランドの動向には敏感です。
 
アイルランドは、長い間隣国イギリスの植民地でした。
その後、過酷な独立運動の過程を経て、1931年に主権を回復します。
現在のアイルランドの人口は459万人。ということは、アメリカに住むアイルランド系の人口の方が、本国の総人口よりもはるかに多いということになるのです。面白い事実です。
 
そんなアイルランドで2017年5月に首相に就任したのが、レオ・バラッカー Leo Valadkar でした。
彼は、首相に選出される前に、自らがゲイであることを公表していました。
彼の父親は、インドからイギリスに移住してきた移民で、イギリスでアイルランド人の母親と結婚しました。バラッカーは幼い頃は両親の合意の元、カトリックとして育てられたといいます。
 
移民、そして国際結婚という背景を持つバラッカーが首相となったアイルランド。その社会の変化に多くの人が注目しました。
アイルランドは元々カトリック教会の影響の強い保守的な国家でした。そしてイギリスからの独立の経緯からみても、民族意識の強い国だったのです。そんなカトリック教会は、今でも同性愛や妊娠中絶に対して否定的です。
従って、バラッカーの首相就任はアイルランドのみならず、カトリック界全体の注目するところとなったのです。
 
そんなアイルランドで先日、妊娠中絶を違法とする憲法改正の是非を問う国民投票が実施されました。もちろん、カトリック教会はこの国民投票にも激しく反発。多くの人がその経緯を見守りました。
結果は、中絶を合法とする人々が勝利。
 
中絶容認を求める運動は、Pro Choice movement と呼ばれています。
欧米では、中絶は女性が出産という自らの運命を決める自由を保証する権利として、常にその是非が問われてきたのです。しかし、アイルランドでは、カトリックの信条からみて、中絶は胎児への殺人行為であるという見解が支持されてきたのです。
 
このアイルランドの変化はアメリカにも大きな衝撃を与えました。
ニューヨークの主要メディアは、昨日からその結果を大きく報道。北朝鮮とアメリカとの首脳会談の行方よりも、アメリカ人には注目されたニュースとなりました。
 
それには背景があります。
まずは、この結果がトランプ政権にもダメージとなるからです。
トランプ政権が成立し、アメリカをはじめ世界中が右傾化の潮流にさらされました。その中で、フランスやオランダなどで極右政権が成立するのでは、と危惧されます。しかし、選挙の結果はリベラル派がことごとく勝利。そしてアイルランドでも、中道左派を進む39歳という若手のレオ・バラッカーが首相となったのです。少なくともヨーロッパでは、トランプ政権に異論を唱える国家が増えていることになります。
そして、トランプ政権はカトリックではないものの、プロテスタント系保守派を支持母体としています。彼らの中でも特に保守色の強い人々がPro Choiceへ異議を唱えているのです。トランプ大統領は彼らに支えられているわけで、アメリカでのPro Choice movementにも懐疑的です。
 
アイルランドでは、同性の結婚も合法化されています。そして、今回憲法までも変えて中絶を合法化したことは、世界中の注目する大きな変化だったというわけです。
 
こうした欧米の動きが今秋のアメリカでの中間選挙にどのような影響を与えるかは未知数です。しかし、極端な保守化への警戒の波が逆流となって、欧米の政界を揺るがしていることは動かせない事実です。
トランプ大統領としては、華やかな外交舞台で北朝鮮との会談を成功させ、追い風となっているアメリカの好景気を自らの政策の勝利として強調することで、支持率を固めてゆきたいところです。
 
とはいえ、伝統的にアメリカに友好的なアイルランドで、トランプ政権に対しても批判的だったバラッカー首相の主張が国民投票で追認されたことは、アメリカの世論にも少なからぬ影響を与えることは間違いないのではないでしょうか。
 

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