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中国のコロナ政策に見える水面下で続く権力闘争の予測

Covid has hit China’s economy harder than expected.

(コロナは中国経済に予想以上の影響を与えている)
― CNN より

権力闘争に敗れた「裸官」の行方と指導部の静けさ

 権力は甘い蜜と言いますが、権力者にとっては、常に甘い蜜と失脚による様々な危険とが隣り合わせです。それは、ときには命にもかかわる重大事になることがあります。それでも、人々は権力の甘い汁を吸いたくて、階段を上り続けるのです。しかし、その途上で多くの人は政争に敗れ、国によっては海外などへの亡命をしない限り、生き残ることができなくなります。特に、中国ではその事情は深刻です。
 
 中国に「裸官」という言葉があります。おそらく中国国内で大っぴらには使えない種類の言葉でしょうが、実際にはごく一般的に知られた言葉です。
 この言葉は、中国の官僚で海外に逃亡した人のことを指す言葉です。その主な目的地はアメリカとカナダ、ときにはイギリスやオーストラリアなども含まれます。実は、アメリカ政府にとって「裸官」は中国の内情を知る上で貴重な情報源でもあるのです。例えば、新型コロナウイルスがどのようにして中国の研究所で発生し、感染が拡大したのかという情報を、アメリカ政府が早い時期に獲得したとされるのも、こうした「裸官」が情報源となっている可能性が高いのです。
 
 「裸官」となった多くの人は、身の危険が自分に及ぶ前に、留学などの名目で海外に家族を移住させているようです。そして、自らが政治的な理由や収賄などの犯罪に関わったとされ責任を追及される前に、海外の家族のもとに移住し、身の安全を守るわけです。実態は解明されてはいないものの、その数は年間で数千人にのぼると言われているほどです。
 習近平政権は賄賂の撲滅を理由に、こうした裸官の身柄の引き渡しを海外の政府に要求していますが、それに応じる国はないようです。それには当然理由があります。彼らを犯罪者と認定するか、政治亡命者と認定するかの判断が微妙だからです。しかも彼らは貴重な情報源です。
 
 では、習近平政権は賄賂撲滅というスローガンを掲げ、ゼロコロナ政策を押し進める中で、その政権基盤を盤石にしていったのでしょうか。政敵を収賄などの罪に陥れて「裸官」にすることで、自らの立場を守ることを完璧にできているのでしょうか。
 中国では、そうした権力の中での微妙な動きを察知する一つの方法があります。
 それは、ごく一般に読まれている新聞などのメディアなのです。例えば、共産党が一党独裁体制を敷いている中国では、指導者が盤石ならば、その指導者の動向が常に宣伝効果をもって紙面の一面に出てくるのです。指導者がどこを訪問し、何をやったか、どんな成果があがっているのかを宣伝することで、自らの評価を落とさないように配慮するからです。しかし、もし指導者の側で何かが起きているとすると、メディア側も政変を恐れて、その指導者の動向の掲載を控え目にします。
 従って、今年の4月から5月にかけて、上海での新聞紙面で習近平氏の動向があまり報道されなかったことは、即座にネットを通して国民の間に広がったのです。
 

全人代に向けてゼロコロナ政策にこだわる習近平の政敵とは

 折しも、中国は二つの大きな問題を抱えていました。一つは、言うまでもなくコロナの再拡大の問題です。そして、もう一つはウクライナ問題に中国がいかに対応するかという問題です。
 確かにこのところ、中国は異例と言ってもおかしくないほどに、世界に対して静かです。特に、世界経済への中国マネーによる攻勢を犠牲にしてまで、ゼロコロナ政策を執拗に続けている中国の姿は奇妙です。
 習近平政権がゼロコロナ政策を続け、それが成功すれば、秋の全国人民代表大会における習近平氏の地位は盤石になります。しかし、ゼロコロナ政策では、PCR検査の検査機器を製作している企業に習近平氏の家族が関わり、利益を享受しているといったような噂が絶えません。また、ゼロコロナ政策をあまりにも徹底していることによる経済的な被害と、人々の鬱憤が限界に近づいているとも言われています。
 こうしたとき、政敵であればどのようにするでしょうか。答えは簡単です。政府の命令ということで、さらにゼロコロナ政策を異常なまでに徹底させ、民心の不満を煽るのです。海外に家族を移住させ、海外の情報を取りながら、ゼロコロナ政策による世界経済への影響も参考にしながら、あえて合法的に習近平政権を追いつめるのです。
 
 では、彼にとって誰が政敵なのでしょうか。実は、習近平氏にはある弱点があります。それは、彼が若い頃に文化大革命によって下放(地方に追放されること)された家族の子どもであったという事実です。彼は、中学校に入ってまもなく教育が受けられなくなり、基礎的な教養を身につけることができませんでした。これは誰もが知っている事実です。
 
 そして、そうした彼に対して、いわゆる中国共産党青年団のエリートグループが常に政敵となりうるのです。中国共産党青年団は、14歳から28歳までの期間、そこに所属することによって中国共産党の幹部への登竜門となる組織です。
 例えば、習近平政権でナンバー2とされる李克強氏などは、そうしたエリートグループの典型です。李克強氏は、習近平政権の前の胡錦濤政権でも要職を務めました。政治抗争の激しい中国で2代にわたって要職につくことは、それなりの背景があってのことです。特に、胡錦濤政権末期には、次の権力の座を巡って激しい戦いがあり、いくつかの失脚劇も話題になりました。代表的なのは当時の温家宝内閣で要職を占め、人民解放軍にも地盤のあった薄熙来(ボーシーライ)氏の壮絶な失脚でした。薄熙来氏は北京大学出身のエリートで、李克強氏などと似た地盤を共有していたわけです。
 こうした権力闘争をくぐり抜けて地位を築いた習近平氏であれば、徹底した賄賂の撲滅運動などで、執拗に政敵を粛清してきた経緯も理解できます。重厚なエリート官僚に対し、習近平氏の地盤は決して強固ではなかったのです。
 

誰かが勝てば誰かが失脚する、権力争いとその現実

 上海の新聞の一面から習近平氏の姿が消えたことで、人々は常に舞台裏で粛々と進められている秋に向けた権力闘争で誰が勝利するかを占います。習近平氏が指導者として再選されれば、彼は権力闘争の勝者です。従って、彼は徹底したゼロコロナ政策を誰が利用し、民意を味方につけるか、そっと見守っているはずです。その結果、彼が再選されれば、誰かが失脚します。
 
 コロナの蔓延に続くウクライナ問題などにより、世界経済に激震が走る中、中国のゼロコロナ政策はグローバルに見てもその経済的なインパクトが懸念されています。その政策があまりにも極端だと、海外メディアなどからも批判が集まります。通常なら過敏なまでに反撃する中国が、最近異常に静かなのにはそれなりの事情があるのかもしれません。
 誰かが勝てば、誰かが失脚する。そして、それを恐れて有力者は家族を海外に移住させ、裸官とならないように気をつけながらも、いざというときの準備も周到に進めておく。これが、権力の甘い蜜を求める人々の現実なのかもしれません。
 

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