カテゴリー別アーカイブ: 世界の心の交差点で 〜コミュニケーションと誤解の背景〜

異文化ビジネスコンサルタント・山久瀬洋二の「世界の心の交差点で 〜コミュニケーションと誤解の背景〜」 4000名以上の企業エグゼクティブへのコーチング、コンサルティングの経験に基づいた、実践的なアドバイス。是非、皆さんの実例やニーズも私の Twitter にコンタクトしてください。日本人にとってのグローバルなコミュニケーションのあり方について、ご一緒に考えてゆきたいと思います。

したたかな国際社会の無法の掟とは

Newark Liberty International Airport

“Don’t ask for permission, beg for forgiveness.”

「許可を求めるな。許しを乞え」
― アメリカの格言より

 今回アメリカに出張したときのことです。
 その日はニューヨーク郊外にあるニューアーク空港から、シカゴ経由でロサンゼルスまで移動することになっていました。
 そもそも、ぎりぎりまでアポ先のスケジュールが固まらなかったために、直行便の予約ができず、仕方なくシカゴ経由となったのです。
 
 さて、空港に到着して発券機を使って搭乗券を受け取ろうとすると、思うようにいきません。近くに航空会社の係員がいたので助力を求めると、彼女いわく、シカゴ行きが大幅に遅れるため、乗り継ぎ便に間に合わないとのこと。そもそも、夜遅くロサンゼルスに到着するはずだったので、この便を逃すとホテルの予約など、様々な不便に見舞われます。
 
 そこで、直行便に空席があるかと尋ねると、大丈夫ということですが、その便の座席の状況を見ると、後方の真ん中の席しか空いていないのです。
 うんざりですね。しかも元々の便ではマイルを払ってアップグレードし、ビジネスクラスの通路側を予約していたのです。

「マイルはちゃんとクレジット(credit)してくれますよね」

私がそう確認をすると、

「自分の担当ではないので、後でウェブサイトで問い合わせてよ」

とそっけない返事。そもそも遅延があって迷惑をかけたことへの謝罪もありません。しかも、このウェブサイトが曲者で、一度変更してしまった航空券の差額を返金してもらうにはかなりの手間がかかります。

「ここでは何ともならないの?」

とさらに問い合わせると、

「無理よ。この便に乗るの、どうするの?」

という応対です。

「他に方法はないよね。じゃあ、ともかく搭乗券をください」

と言って、しぶしぶ手続きを終えました。

 

 やれやれとため息ひとつ。ところが、これで話は終わりません。
 搭乗券を持って、セキュリティ・チェックの場所に行くと、そこが長蛇の列なのです。搭乗券を見ると搭乗時間まで15分しかありません。しかも、出発30分前には搭乗を締め切り、飛行機に乗れなくなると書いてあります。
 先ほどのエージェントは、空港の混雑状況や差し迫った搭乗時間への配慮がなかったわけです。しかも、このまま列に並んでいては乗り遅れ、乗り遅れた責任は自分に降りかかる恐れすらあるわけです。先ほどのエージェントと搭乗ゲートの係員との連携プレイなど期待できないのです。
 
 列の後ろにつき、そばにいる警備員に急を伝えても、ともかく列に着くようにと言うだけです。一体これは誰の責任なのでしょう。日本であれば、航空会社に強くクレームすれば何とかなるかもしれません。しかし、アメリカではそんなことをしている間に本当に乗り遅れ、あとの処理は全て自分で行うということになりかねません。
 
 そこで、私は手荷物をしっかりと握りしめ、「Excuse me. I am missing my flight. Sorry. Let me pass!」(すみません。飛行機に乗り遅れそうなので、ごめんなさい。先に行きます!)と連呼しながら、並んでいる人を押し分けてどんどん前に。
 おそらく100人抜きはしたのではないでしょうか。何度も同じ言葉を繰り返し前進です。ただ ”Excuse me!” と言ってもダメでしょう。「乗り遅れそうなんだ」という理由をちゃんと添えて連呼し、横に人がどいてくれたら ”Thank you!” と何度もお礼を言いながら、なんとか数分で列の先端にやって来たのです。
 この行為で、やっと飛行機に間に合います。
 
 そして、飛行機が出発する直前、前方に通路側の席を見つけます。
 すかさず、キャビンアテンダントにオリジナルの予定が書かれた書類を見せ、事情を話し、運良くたったひとつ乗客が乗ってこなかったことで空席になった、ビジネスクラスの通路側の座席に座ることができたのです。
 6時間のフライトです。座席を確保した時の安堵は言うまでもありません。
 

 一度日本を離れれば、自分が求めることは自発的に動かない限り、誰も助けてはくれません。
 このケースの場合、そもそも最初のエージェントの対応に大きな問題はあるものの、その結果起きてしまった状況を変えられるのは航空会社ではなく、自分でしかないのです。
 長蛇の列についたことで飛行機に乗り遅れたとき、誰もその責任は取ってくれません。ですから、自分で決めて列にどんどん割り込むことで、まずは搭乗の問題を解決し、さらに飛行機の中で自分のニーズをキャビンアテンダントに主張してこそサービスを受けられるのです。
 
 この行動様式は、欧米でのビジネスの進め方にも深く繋がります。列の後ろから「割り込んでいいですか」という許可を求めるのではなく、まずは行動を起こし、割り込みながら、その後で必要があれば謝罪して前に進むのです。その発想を表したものが、今回紹介した格言なのです。
 
 既得権を持つこと。アドバンテージ(advantage)を最大限に利用するために、まずは動いて状況を変えること。それが国際社会のサバイバルゲームでの鉄則とも言えそうです。
 最初からやってもいいですかと問えば、大方は「No」という答えが返ってきます。ですから、許可を求めるなということになるのです。動いた後で「ごめんね」と言えばいいのです。「ルールを重んずること」は大切ですが、「ルールに縛られてしまうこと」には問題があります。海外との競争にさらされている今、日本人、そして日本の社会が抱える課題は、このルールに縛られていることを、「ルールに従うこと」と勘違いしていることなのです。
 
 「許可を求めるな。許しを乞え」というしたたかな方法で、どんどんルールを変えてゆく競争社会の中にあって、あまりにもお人好しな優等生としての日本人の姿がしばしば浮き彫りにされることがあります。
 そうした日本人の考え方が良いか悪いかは改めてじっくり考えるとしても、そのことによって我々が失いかねない権益や利益の大きさだけは知っておいてほしいのです。
 

* * *

リアルなシチュエーション想定が対応力を徹底強化する!

『こんなとき英語でどう乗り切る!? 海外で起こりうる140のシチュエーション』山村啓人、チャールトン・ビル・モアナヌ (共著)こんなとき英語でどう乗り切る!? 海外で起こりうる140のシチュエーション』山村啓人、チャールトン・ビル・モアナヌ (共著)
海外滞在中に、実際に起こりうる具体的な140の状況を想定。それぞれの状況を頭の中でイメージ、シュミレーションした上で、それらをスムーズに乗り切るために必要なフレーズを効率よく学習できる1冊です。それぞれの場面における、異文化コミュニケーションをうまく乗り切るための発想やコツも丁寧に解説!柔軟で、実用的な英語コミュニケーション能力が身につきます。

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文化に寄り添った言語がもたらす誤解とは

“We don’t see things as they are, we see things as we are.”

「物事を自分がみているように、彼らもみているとは限らない」
― Talmudic(ユダヤ教の聖典)より

 今年の3月のこと、私はある国際会議でファシリテーションをしました。
 その仕事の後、文化の違う人同士のコミュニケーションで起こりうる誤解のリスクについて、90分間の講演をしました。
 そこで、カナダの企業の幹部が私に質問をしたのです。

「我々は、同じ業界で、同じミッションを共有しています。しかも、同じ技術をもって活動している同志のようなものです。そんな間柄と信頼関係の中で、誤解が生まれるとは思えないのですが」

 そこで、私が一つの事例を示しました。

「なるほど。よいご指摘ですね。では、これから私が一つの短いスピーチをしてみます。もちろん言語は英語です。このスピーチを聞いた後で、皆さんに私が何を言いたかったかを尋ねてみたいのです」

 私はそう言って、さっそく英語でスピーチを始めました。

「今年の冬は、アメリカなどは強烈な寒波に見舞われ、被害も出たようです。冬の寒さは、アメリカだけではなく、モスクワでも記録的な寒さでした。しかし、逆に日本では今年の冬は雪も少なく、暖かい日々が続いています。世界中で様々な気候変動が起こっているようです。従って、これからは今まで以上に、異常気象にも耐えられる商品づくりについて考えなければなりません」

 こうスピーチをした後で、フランスとニュージーランド、そして先ほど質問をしたカナダの幹部に質問をします。

「さて、ここで私が言いたかったポイントは何でしょうか」

 すると、彼らは口を揃えて、

「よくわからなかったよ、ポイントが。でも、アメリカなどでの気候について話したかったんだよね」

「なるほど。では、韓国と中国の代表の方に聞きましょう。私のスピーチはいかがでしたか」

 すると彼らは答えます。

「非常に論旨が明快で、素晴らしいスピーチでした。異常気象に備えた商品づくりをしなければならないことには、我々は賛成ですよ」

「ありがとうございます。東アジアの人には、私の言いたかったことが通じました。しかし、欧米やオセアニアの人、つまり元々ヨーロッパ系の言語圏の人は皆、私のスピーチのポイントをつかめませんでしたね。同じ英語で話したのに、どうしてこのようなことが起きたのでしょうか」

 会場がざわめきます。
 しばらく間をおいて、私は問いかけました。

英語はあくまでも言葉にすぎません。その言葉をどう操るかのノウハウは、実は文化によって異なるのです。今回の私のスピーチは、ある文化圏の人には全く意味不明で、東アジアの皆さんにはよく理解されました。実は、私は日本を含む東アジアの人々のレトリックに従って英語を喋ったのです。だから、そうした論理展開が存在しない欧米の方々、あるいは英語圏の方々には、私の話のポイントが伝わらなかったというわけです」

 いうまでもなく、私は日本流の「起承転結」法を使って、英語でスピーチを行いました。そして、実際は私の予想以上にそのスピーチを理解できる人と、理解できない人とがくっきりと分かれたのです。これは驚くほどはっきりとした結果でした。

「なるほど、英語が喋れるだけでは、そして英語だけに頼っていては誤解が生じるということですね」

 カナダの代表は納得したように、私に話しかけます。

「そうなんです。実のところ、国際交渉の決裂の多くは、こうした誤解が原因なのです。悲しいことに、この結果が戦争につながることもあり、ひどい場合は人の命を奪うことも起こってしまいます。というのも、誤解が起きるとき、お互いが相手に不信感を抱き、そこから怒りや緊張が生まれるからです。ビジネスでも同様です。皆さんは大きな組織の幹部です。であれば、海外とのやり取りでこうしたリスクからプロジェクトを守ることも大切な使命なのです」

 そう私は説明しました。

 
 実際に、ビジネスなどの国際交渉は、お互いにより良い結果を共有するために行われます。誰も最初から決裂は望んでいません。それなのに、交渉やプレゼンテーションがうまくいかないのは、こうした異文化でのコミュニケーションスタイルの違いに起因することが多いのです。
 日本人も含めて、英語を喋るとき、それを自分の所属する文化で醸成されたコミュニケーションスタイルに則して使っていることに気づいている人は、そう多くはありません。そのことが、伝えたつもりが伝わっていないとか、合意したはずなのにうまく動いてくれないといった苦情の原因となっているわけです。
 

こうした誤解があるときに、まず柔軟に対応することが大切ですね。私の会社では、相手に緊張感を与えないように、相手の意図や言いたいポイントを確認するノウハウの研修をしています。現代のグローバルな環境でリーダーシップを取ってゆくには、こうした多様なコミュニケーションスタイルを受け入れ、それに応じた対応をお互いに心がける組織づくりが必要なのです」

 私のスピーチを受けて、異文化対応に詳しいオーストリアの専門家がこのようにコメントをしました。彼のコメントこそが、そのまま今の語学教育の現場や国際関係についての様々な教育関係者にも伝えたいメッセージであるといえましょう。

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ビジネスシーンの英語コミュミケーションに悩む、すべての人に!

『エグゼクティブ・コーチング~誤解される日本人~』山久瀬洋二エグゼクティブ・コーチング~誤解される日本人~』山久瀬洋二 (著者)
IBCパブリッシング刊
*TOEIC では高スコアを取っていても、実際のビジネスの場では役に立たないという人が多いといわれます。それは TOIEC で高得点を取る技能に走って、最も大切な異文化コミュニケーション力を培っていないからです。異文化コミュニケーションの本質を習得できれば、中学英語と、そこに自らの仕事に関する専門用語を加えるだけで自分の意思を理解してもらえます。本書では、日本人の思考やビジネス文化に基づいて英訳することで生じる誤解などを解説し、文化の異なる相手と交流するスキルを伝授します。

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異文化対立への模索にゆれるアメリカ社会

“Inclusive leadership is a process of bridge-building. It involves careful listening, outreach to people with different perspectives, and persistent, stubborn efforts to find common ground.”

(インクルーシブ・リーダーシップとは、人々に橋をかけるプロセスのことだ。それは、異なるものの見方に対して粘り強く、かつ諦めずに耳を傾け、その人たちの言葉をしっかりと聴きながら語りかけ、共通項を見出すための努力を意味している。)
― Ernest Gundling・Aperian Global から

人々の語りから聞こえる閉鎖的なアメリカの軋み

 アメリカに到着した二日後、アメリカの真ん中にあるオクラホマのイラン系のレストランで、仕事相手の一家と夕食を共にしました。
 彼はアメリカ中西部で、留学生に向けた英語学校を9校運営する事業家です。出身はイラン。若い頃に祖国の混乱に追われてアメリカに移住してきた彼は、自らの経験から子供の頃に多言語に接することがいかに人の頭脳に良い影響を与えるか話してくれます。

「今、トランプのために留学生にビザがおりにくくなっているね。だから国内での多言語教育に力を入れなければならないんだよ」

 彼はそう語ります。確かに、留学生に関係する教育機関は、どこもトランプ政権の閉鎖的な政策の影響が自らに及ぶことを懸念しています。

 
 次の日の夕方、3時間のフライトの後、ロサンゼルスに着きました。ロサンゼルスの西、太平洋に面したサンタモニカにあるビーチクラブには富裕層が集まり、夕食を楽しんでいます。

「おい。俺たちの中ですら、トランプを支持している奴がいるそうだ。大きい声では言えないけど。あいつもしかすると再選されるかも」

「そんなことがあったら、俺はカナダ人になるよ。この国に未練はないさ」

「それよりお前の持っているメキシコの別荘、どうするんだよ。メキシコとの国境がいよいよ閉鎖されるかもしれないって言っているよ。週末向こうで遊んでると、帰れなくなるぞ。気をつけろよ」

「かまわんさ。やれるものならやってみろ」

目指すべきは異なる宗教や人種、価値観の融和

 さらに次の夜、サンタモニカの別のレストランで、シアトルから出張してきている会社の社長と夕食を共にしました。最後にコーヒーを飲みながら、彼は自分の身の上についてぼそぼそと語り始めました。

「俺はなあ。11歳のとき、エリトリアからスーダンまで11日間歩いて亡命したんだよ。エリトリアって知っているかい?」

「ああ、エチオピアの北にある小さな国だね。その頃何があったんだい」

「エリトリアは当時エチオピア領だった。そして独立運動が起きたとき、運動を起こした青少年に対して凄惨な虐殺があったんだ。子供にも容赦なかった。だから父親は俺を守るために、エリトリアからスーダンに密かに亡命させたのさ」

「なるほど。それからサウジアラビア経由でアメリカに移住してきたわけだね」

「そうだよ。ところで、日本ではニュージーランドでおきた惨劇はどう報道されている?」

「一応、ショッキングな事件なので報道はされているけど、日本は平和だよ。大きなリアクションがあるわけではない。君の住むシアトルではどうなんだい」

「シアトルでは皆がモスクに集まった。それもムスリムだけじゃない。キリスト教徒もユダヤ教徒も、様々な心ある人がね。そして、人種や宗教による対立をなくそうと話し合ったよ。この動き、アメリカの各地で起きてね。一つのムーブメントになっている。俺もムスリムだから、ニュージーランドのことは人ごとじゃない。この動きをしっかり支援しているよ」

「そうか。今度シアトルに行ったら、一緒に連れて行ってくれよ」

 翌日のこと、同じ会社のオーナー夫婦に誘われました。彼らは悠々自適な生活を楽しむ70代後半の夫婦です。

「ヨウジ。お前マリファナショップに行ったことがあるかい」

「ないよ。いきなりなんだい。確かカリフォルニアでは合法になったとは聞いているけど」

「面白いよ。身分証明書を提示して、20歳以上であることを証明すれば誰でも入れる」

「なるほど。でも連邦政府は違法だって言っているだろ」

「そうだ。でも州は認めている。皆で合法にするか否かの投票をしたからね」

カリフォルニア州で合法で、連邦政府で違法だとは奇妙だね」

「まあ、その奇妙なところがアメリカさ。だからトランプがいても、ここではしっかり移民が働いている」

 彼に連れられてマリファナを購入する店を見学してみると、店内は思いの外モダンで、アップルストアか何かのようでした。様々な商品があり、店員が説明をします。

「あそこにATMがあるね」

 私はオーナー夫婦に質問します。

「デビットカードかキャッシュでしか購入できないからね。連邦政府と対立しているから、銀行が支援しないんだよ。だから常にキャッシュ商売というわけだ。でも、このビジネスに将来性があるからと投資する金持ちは多いんだよ」

 もちろん、私は日本で違法なマリファナを買えません。その後、夫婦に連れられて映画を見た後、夜遅くまで世界情勢など様々な話題について語り合いました。

多様性が広がる世界、そして日本に求められるものは

 それから二日経った夜。私はサンフランシスコ郊外の海辺のレストランにいました。古い友人との夕食です。彼は、国際企業でのリーダーシップやコミュニケーションに関するコンサルティング会社を経営しています。

「最近どうだい」

「会社の人事部門から、いかに社員間の対立をコントロールすればいいか相談がひっきりなしだよ」

「いざこざって?」

「考えてもみな。アメリカの会社では多様な背景を持った人が働いている。考え方も様々なんだよ。そこにトランプ政権ができて、移民政策をコントロールし始めた。職場でいきなりトランプを支持する野球帽をかぶったクレイジーな奴が立ち上がって、他の人たちを非難しかねないだろ。そうしたことを防ぐにはどんな研修が必要かっていうことさ」

「そうか。オクラホマで打ち合わせをした奴も、サンタモニカで出会った社長も皆中東からの移民だった。彼らも苦労しているようだよ。でも、カリフォルニアはマリファナを合法化するぐらいだから、まだリベラルな人々の聖域じゃないのかな」

「そんなことはないよ。ここだってどうなるかわからない。大切なのは inclusive leadership(インクルーシブ・リーダーシップ)を誰がとれるか、ということだね。つまり、人々の違いを受け入れながら、それをまとめてゆく力をリーダーが持たなければ、これからの組織での前向きなチームワークは難しくなる」

「なるほど。異文化でのコミュニケーションをさらに掘り下げているわけだ」

「ああそうさ。すでに多様性にさらされている世界企業で働く人々が、政治や一部のポピュリズムによって分断されてはまずいからね」

 
 多くの人が、今の世界の状況を憂いています。しかも、アメリカではそれが自分自身の仕事や生活と深く関わっていることが、こうした会話から理解できます。さて、日本人はこうした会話に接して何を感じ、どう思いを馳せるのでしょうか。
 

* * *

『アメリカ史 / A Short History of America』西海コエン (著)アメリカ史 / A Short History of America』西海コエン (著)
アメリカの歴史を読めば、アメリカのことがわかります。そして、アメリカの文化や価値観、そして彼らが大切にしている思いがわかります。英語を勉強して、アメリカ人と会話をするとき、彼らが何を考え、何をどのように判断して語りかけてくるのか、その背景がわかります。
本書は、たんに歴史の事実を知るのではなく、今を生きるアメリカ人を知り、そして交流するためにぜひ目を通していただきたい一冊です。

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海外で誤解をうみだす言語の奥に潜む異文化の意識

“In Japan, one’s language and the way one interacts with another person will differ depending on whether the other person is “higher” or “lower” than oneself.”

(日本では相手の人格が自らより「上」の立場にあるか、「下」にあるかによって、言葉遣いも変われば、応対も違ってきます。)
― IBCパブリッシング版『日本人のこころ』より

とある海外オフィスでの一幕:日本人上司と外国人部下

「ねえ、君にお願いしていたレポートどうなってる?」

ニューヨークで、斎藤さんという日本人が部下のニールに英語で尋ねます。

「まだ半分しかできてませんよ」

ニールは答えます。

「え、急ぎだって言ったよね」

斎藤さんは憮然としてニールに文句を言います。

「サイトー。あなたの指示はいつも急ぎじゃない。いつまでにしろと具体的に言ってくれないとわかりませんよ。曖昧なんです、指示の出し方が」

これには斎藤さんも返す言葉がありません。

「でもさ、これって責任感の問題だよ。仕事に対する意識の問題だと思うんだけど」

彼は、拙い英語で必死にニールを諭します。
すると、ニールはいきなり立ち上がって、斎藤さんを攻撃します。

「私が責任もってやっていないって言うんですか。どういう意味?今やらなければならないことがどれだけあるか、あなたは知っているのですか。サイトー、あなたの言っていることは意味不明。いったい何を言いたいんですか」

いやな雰囲気が漂います。そして、斎藤さんは何も反論できないまま、「わかったよ」と言ってその場を離れます。心の中は怒りに燃えながら。
そして、ニールはニールで両手を上げて不満を表明しながら、自分のブースの椅子に腰掛けます。

こんな場面が、日本企業の海外オフィスのあちこちで見かけられます。
 

「言語表現」に裏打ちされた「人間関係」の意識の差異

 日本語には、敬語があります。そして、我々は子供の頃からその使い方を学びます。
 敬語には尊敬語、謙譲語、丁寧語など、様々な種類があり、これは日本語を学ぶ外国人にとっては頭痛の種といえましょう。
 例えば、「ぜひ何かお礼を差し上げたいのですが。お望みのものがあれば、ご遠慮なくおっしゃってください」という言葉の中には、この3種類の敬語が全て含まれています。
 
 では、英語はどうでしょうか。中世の英語はともかく、極めて特別な場合を除いて、我々が使っている英語にはせいぜいあっても丁寧語のみでしょう。しかも、最近ではそうした丁寧な表現はあまり使用されなくなり、表現がどんどんカジュアルになっています。
 
 言語は、人の意識に知らず知らずのうちに影響を与えます。
 敬語を常に使用する日本人は、敢えて意識しなくても、心の中に人との上下関係への配慮を抱きながら社会生活を送っています。例えば、初めて人と出会った瞬間に、相手と自分とを様々な立場から立体的に捉え、そこに上下関係を感知し、それに従った行動をとるのです。相手の年齢、先輩か後輩か、顧客かどうか、どんな組織に属する人か、上司か部下か、何かを学ぶ立場か教える立場か、さらに親族の中でどういう立場の人かなど、瞬時に相手をこうした立体的な図面の中で捉え、言葉遣いを選択します。
 
 英語によって育った人々は、そうした日本人の感覚を持ち合わせていません。
 アメリカの独立宣言に All men are created equal という言葉がありますが、敬語表現の少ない英語の社会では、立場の違いはあっても、人と人とは基本的に平等であるという意識が心の中に刻み込まれています。
 従って、英語を母国語とする人は、例えば自分が売り手で相手が買い手である、というその場での立場の違いは意識しても、言葉遣い自体は日本語に比べ極めて平易です。そして、立場の違いを理由に、相手に対して上下関係を求めるような表現をすることは、マナーの上からもタブーなのです。
 ですから、アメリカなどでは部下であっても、上司に対して反論するときは、我々が思う以上にはっきりと驚くほど強く反論します。ウエイターも客に対して、日本で期待するようなへり下った対応はしません。サービスはするものの、人としては対等であるという意識が、英語という言語を通して形成され、それが制度となり、常識ともなっているのです。
 
 斎藤さんとニールとの不愉快なやり取りの背景には、こうした文化の違いからくる相手への異なった期待感が摩擦となったのです。
 

言葉で伝える文化と雰囲気に頼る文化との違いを乗り越えて

 しかも、日本語は曖昧です。
 多くの場合、日本人は雰囲気で不満などの感情表現を伝えようとします。言葉にしてしまえばおしまいという意識があるのか、自らの立場を意識しながら婉曲に感情を表現します。
 「最近の若い人たちは、以前よりはっきりと自分の意思を表明するようになったけど」と反論する人がいるかもしれません。確かにそれは事実でしょう。しかし、その意思の表明の方法はやはり遠回しで、直截ではありません。言葉そのものに頼らなくても、相手に意味するところが十分に伝わるからです。
 ですから、そんな日本語の感覚に従って英語を使った場合、英語の能力が高いほど誤解が広がるという悲劇が起こるのです。

「フィードバックがないんですよ。言葉でちゃんとどうなのかを伝えてくれなければ、自分がどのように評価されているかわからないんです」

ニールは以前、そのように別の日本人に語っていました。

「サイトーは、英語は堪能でしょ。だから、彼は我々アメリカ人の部下のことを見下しているんですよ。日本人優越主義者なのかもね」

彼はこのように斎藤さんを批判します。
 斎藤さんは英語ができるだけ、却って目に見えない文化の違いという罠にはまったまま、相手に深刻な誤解を与えてしまっているのです。

 言葉そのものによってコミュニケーションをする欧米型の文化と、日本をはじめいくつかのアジアの国々にありがちな、雰囲気や阿吽の呼吸にコミュニケーションの多くを頼る文化とが生み出す誤解は、時として深刻です。
 ですから、我々が英語で欧米の人とコミュニケーションをするときは、常に自分の意図が相手に伝わっているか確認することが必要です。
 そして、相手が自分の感じている上下の「立場」の意識をもっていない、よりフラットな環境にいる人であることも、しっかりと意識しておく必要があるのです。
 

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ドゥテルテ政権とアメリカの世論のギャップが語ること

ROBINSON NIÑAL JR./PRESIDENTIAL PHOTO

“Leaders of China and the Philippines have preliminarily agreed to cooperate on oil and gas exploration, a move that has angered many Filipinos wary of Chinese territorial expansionism in the region.”

近郊での領土拡張政策に不安をいだくフィリピン人を刺激しながらも、中国とフィリピンのリーダーは石油とガスの資源開発での協力について基本合意に。
(CNNより)

ダイアローグ:ドゥテルテ大統領とアメリカ世論

「ねえ、アメリカの人って一般的にフィリピンの大統領のことをどう思っているの?」
あるフィリピンの友人が、先日マニラでにこう問いかけました。
「残念ながら、ドゥテルテ大統領は人権を無視して、人を裁判なしで殺害するような、とんでもない指導者だと思っている人が多いと思うよ」
私は、ドゥテルテ大統領に対するアメリカの一般的な世論を率直に伝えました。その上でさらに、
「確かにあれは、オバマ政権の時の外交の過ちだったかもしれない。オバマ政権はリベラルで様々な功績を残したけれど、外交では中東問題などでも失敗している。フィリピンに関していうならば、フィリピンの実情を熟慮せずに表面に現れた事柄だけでドゥテルテ大統領を批判したことが、両国の関係の悪化につながったことは否めないね」と付け加えました。

「アメリカ人って、自分たちの価値観を平気で押し付けてくる。フィリピン社会がどれだけ賄賂や麻薬などに苦しめられてきたか、誰も理解していないのよ。私の近所でもドラッグが横行し、政治家は腐敗していた。だから誰も将来に希望を持てなかったの。この深い闇を是正するには、強権によるリーダーシップがどうしても必要だったのよ。それを豊かな国の人が、人権の侵害なんて綺麗事じみた言葉で批判するのは簡単だけど、それは的外れ。どうかと思う。実際、ドゥテルテが大統領になって、犯罪も政治の腐敗も少なくなった。社会が発展するために最小限必要な土台ができつつあるのよ。今までは何をしようとしても、お金が政治家に流れるだけで、社会インフラも整わなかった。オバマ大統領には、そんな現実を見据えた上でコメントしてもらいたかった」

友人はそう説明をしてくれます。

「いえね。アメリカの世論を味方にすることは、外交上極めて大切なことではあるけれど、それは容易なことじゃないんだ。特に、海外で人権という金看板が侵害されていると報道されると、民主党にしても共和党にしても、アメリカの国内世論を考えて、それはとんでもないことだというふうになってしまう。それはフィリピンだけのことじゃないよ。日本だって女性の人権が侵害されているとか、移民に対する差別が横行しているなど、様々なことがアメリカ社会で問いただされてきた。アメリカは大きな国で、多彩な移民社会だけに、物事を白か黒かという単純な図式で説明しないと意図が社会に浸透しにくいんだ」

「そうね。アメリカ人のいうリベラルって言葉が時々独りよがりで偽善的にすら聞こえてくるのは、そのせいかもしれないわね。例えば、フィリピンでいえば、独裁者だったマルコスは悪人で、その政権を倒した後にしばらくして大統領になったコラソン・アキノは、民主化されたフィリピンで女性初の大統領ということで、アメリカのリベラルな人々に支持されていた。でも、現実はといえば、彼女の政権は賄賂で汚れた政権だった。ドラッグ問題もほとんど改善できず、フィリピンは犯罪の多い危険な国になっていた」

「確かにね。しかも、ミンダナオ島を中心にイスラム原理主義によるテロも頻発していたよね」
「そう。そんなミンダナオ島の問題を解決し、麻薬組織も追放したことが、ドゥテルテが大統領になる前のミンダナオの知事だった頃の功績だったのよ」

ドゥテルテが導くフィリピンの未来は

今、フィリピンは東南アジアの中で微妙な位置に置かれています。
フィリピンは、一時南シナ海の領土問題で中国と緊張関係におかれ、アメリカとの同盟強化を意図していました。しかし、ドゥテルテ大統領になって社会改革が進む中で、それを強権政治と批判したアメリカとの感情のもつれがとれないまま、今フィリピンはここで紹介されているように、一部の有権者の不安をよそに、中国との関係改善に極めて前向きです。中国から資金を調達し、社会基盤を整えることにも積極的です。
ベトナムやインドネシアなど、中国の覇権を警戒している国々の列から、明らかにフィリピンは離脱しつつあるのです。
 
11月30日に、コラソン・アキノが大統領であった頃のアメリカの指導者、ジョージ H. W. ブッシュが死去したというニュースが飛び込んできました。94歳でした。
両名が大統領であった頃、実はアメリカとフィリピンは緊張関係にあったのです。アキノ政権は、日本にとって沖縄の米軍基地にあたるスービック基地を閉鎖し、アメリカとの軍事同盟にくさびを打ち込んだのです。しかし、その後長い間フィリピン経済は低迷し、東南アジアの他の国々の伸長と比較しても、状況は改善されませんでした。
 
今、ドゥテルテ政権になって、そんなフィリピンにようやく未来が見えてきたという人が多いのも事実です。
豊富な人口資源と8000もの島を有する広大な国土をみれば、確かに今フィリピンに将来性を感じるのは当然です。
 

 

複雑なフィリピン社会とステレオタイプ

「だから、アメリカの世論が常に正しいとは限らない。フィリピンは長い間スペイン領で、その後アメリカが植民地にした。第二次世界大戦では日本に占領され、その後はずっとアメリカの傘下にあった。だから、フィリピン人と一言でいっても、先祖はさまざま。中国系、スペイン系、アメリカ系、日本系などなど。これがフィリピン人の顔だなんてないのよ。一人一人まったく違ったルーツがあるのだから。言葉だって、地方地方で異なっている。フィリピンの言葉はタガログ語だと思っている人が多いけど、タガログ語はマニラ周辺の言葉を無理やり国の言葉にしただけのこと。だからこそ、英語が多くの人にとっての共通語になるわけ。そんな複雑なフィリピン社会を一つの国家として発展させてゆくには、時には強力な指導者が必要なわけ。アメリカ人ってそういった事情を理解せずに、なんでも自分の尺度でものをいう。腹が立つわね」

「アジアの価値と欧米の価値とは、その土台が異なるために、よくぶつかってしまう。アメリカはある意味で、欧米の価値を代表しているように思えるけれど、ヨーロッパとアメリカとではものの考え方が大きく異なるのも事実。ただ、ことアジアへの評価となると、そこにはやはり欧米に共通したステレオタイプがあることは否めない。フィリピンの複雑な過去や社会的現実に対して、彼らのほとんどは無知なはず。それだけに、いかに正しい情報を欧米社会に伝えるかという課題にいつも苛まれるんだね」

日本にしろ、フィリピンにしろ、はたまた他のアジアの国々にしろ、一度ステレオタイプに批判を受けると、その背景を説明しようとすればするほど、それが言い訳のための自己弁護に聞こえ、さらに誤解が深まってしまうというジレンマもあります。ドゥテルテ大統領への評価に対するアメリカの厳しい世論は当分続きそうです。

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『言い返さない日本人: あなたの態度が誤解を招く!』 山久瀬洋二 (著)言い返さない日本人: あなたの態度が誤解を招く!』 山久瀬洋二 (著)

日本人を誤解してきた、外国人のアッ!と驚く言い分。
欧米をはじめ日本・中国・インドなどの、大手グローバル企業100社以上のコンサルタントの経験を持つ筆者が、約4500名の外国人と日本人のもっとも頻繁に起こるビジネス摩擦を28例挙げ、それぞれの本音から解決策を導き出す。今、まさに外国人とのコミュニケーションに悩む、多くの日本人に向けた究極の指南書。異文化との出会いが楽しくなるコミュニケーション術。異文化の罠を脱出せよ!

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