カテゴリー別アーカイブ: 世界の心の交差点で 〜コミュニケーションと誤解の背景〜

異文化ビジネスコンサルタント・山久瀬洋二の「世界の心の交差点で 〜コミュニケーションと誤解の背景〜」 4000名以上の企業エグゼクティブへのコーチング、コンサルティングの経験に基づいた、実践的なアドバイス。是非、皆さんの実例やニーズも私の Twitter にコンタクトしてください。日本人にとってのグローバルなコミュニケーションのあり方について、ご一緒に考えてゆきたいと思います。

著名人のセクハラ疑惑に揺れるアメリカでの男の本音は

sexual_harassment

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“A day after NBC announced his firing, Matt Lauer said Thursday that he is “truly sorry” for the pain he has caused.”
(NBCの解雇通知を受け、マット・ロワーは火曜日に彼が与えた苦痛について心からおわびしたいと表明)
CNNより


この見出しは、アメリカの著名なニュースキャスターが先週複数の女性へのセクハラを暴かれ解雇されたことを報じたヘッドラインです。
* * *
ここで開示する内容は、レストランでの極めてプライベートな会話です。ですから、ここでの会話が良いか悪いかはあえて論じません。
性的差別に苦しむ女性とそれに対する男性の意識のギャップを考えさせられる内容と思い、あえて掲載したことをご了解いただいて、ご一読いただければ幸いです。

「最近アメリカで報道されている一連のセクハラ問題をみてどう思う?」

場所はロサンゼルス郊外のステーキハウス。昨夜、私はアメリカ人の出版社のオウナー、それにインベスティメント・バンカー、劇場チェーンのオウナーの男性3人と食事をしました。彼らの年齢は60代から70代。
ピーターというインベスティメント・バンカーは、いかにもアメリカ西海岸で成功している男らしく、カジュアルなセーターに野球帽をかぶっています。そんな彼が私に質問したのです。

「次々にセクハラ疑惑で有名人があげられて、マスコミは大わらわ。ありゃ大変だね。皆、次は自分の過去が暴かれるんじゃないかって戦々恐々だろ。マスコミの餌食になるんじゃないかってね」

チャーリー・ローズ。あいつもだよ。俺は奴のニュースショウをいつもみていた。日本でもこういったことってあるのかい?」

「そりゃあるさ。報道はいつでもネタを探しているしね。でもこんなに過激に暴かれることはあまりないよね。ウエインスタインのケースにはちょっとびっくりだけど、日本だったらそのあたりで幕引きかな」

ことの発端はハリウッドのプロデューサーで知られるハーベイ・ウエインスタインが女優に対し行った様々なセクハラ、性的威圧が暴かれたことでした。その後、芋づる式に著名人の行為が報道され、人気ニュースキャスターやマスコミの大物までもが過去のセクハラ行為、性的異常行動を暴かれているのです。

「おいおい。冗談じゃないよ。俺たち男どもは、皆びくびくしているんだ、誰もがちょっとしたことで変態扱いだ。身に覚えの”ある”ようなことでね」

そういう劇場チェーンのオウナーはトムといいます。彼は髪が長く、ワイシャツ姿で声も大きく、ジェスチャーも活発です。

俺はね。実は週末は子供達のサッカーチームのコーチをやっている。でもね。絶対に子供たちとトイレにはいかないよ。何を言われるかかわならないからね」

神父や政治家などの子供への性的行為が長年にわたって批判されてきたのです。トムのコメントを聞いた出版社のオウナーのダンが話題を引き取ります。

「考えてもみな。長年仕事を一緒にしてきた女性がいるとする。何年もね。そんな中で、ちょっとやばいぜといったような雰囲気になることはあるよね。男なら誰だって叩けば埃がでるさ。それをさ、或る日突然暴かれて、テレビで取り上げられ、皆の前で謝罪だよ」

「でもね」

が続けます。

「問題は、公ではここで話しているようなことは決して言えないということだよ。だって、彼らに同情したようなことをいえば、途端に大変なことになるしね。日本では最近逆に女性議員などの不倫が騒がれてね。無菌室培養でもされなければテレビなんかにはでるもんじゃないと感じることもあるよね」

「これは魔女裁判、いや魔男裁判だよ。いいかい?恋も浮気も、ちょっと胸の割れ目がみえてぞくっとしたときにニヤリともできない。かなわないぜ」

ピーターがビールを飲みながらそう言います。
すると、トムが、

「おいおい。声が大きいぞ。ここはレストランだよ」とたしなめます。

セクハラは男性と女性との間での差別を考えるときに受け入れられない卑劣な行為です。ですから、彼らも職場では決してこうした会話はしないわけです。
ここはステーキハウスで、男同士の酒の上での会話だからこそ、本音が出てしまうというわけです。

「そりゃ、例えば痴漢はいけないし、上に立つ立場を利用して女性に迫ったりすればまずいだろう。でも、今回のマスコミの騒ぎ方は異常だよね。本当に調査をしてやっているのかね。きっと大物議員や映画俳優、著名なキャスターたち、みんなドキドキじゃないのかね」

ダンがそういうので、私は頷きながら話を引き取ります。

「アメリカは日本以上に長年にわたって人種差別や性差別などに取り組んできた背景があるよね。それはいいことだと思うよ。今回の問題は、女性への差別と男と女の問題を混同しているようにみえることにあるんじゃないかね」

「それだよ。でも、男が女に興味を持つって悪いことなのかい。俺が若かった頃はもっとおおらかだったね」とダンが言います。

「おいおい、スキャンダルは男と女の問題だけじゃないよ。この前取り上げられた映画俳優はゲイの間のセクハラだったよね」

これはトムのコメント。

彼らは皆ビジネスでは成功した人達で、オフィスでは多くの人をマネージします。もちろん、そこでは様々な人種、年齢の人が働いています。それぞれ価値観も異なれば、権利意識も異なります。
そして、多様なアメリカの中で最も気をつけなければならないのは白人の男性、それもある程度社会的地位のある男性だと言われます。
人種差別、性差別、さらには年齢への差別など、様々な観点から突っ込まれやすい人達だからです。ここにはまさにそうした三人が集まって鬱憤を晴らしているというわけです。


その日の朝、テレビで、何年も前に若いインターンだったモニカ・ルインスキーとの関係を暴かれ辞任寸前に追い込まれたビル・クリントンのことが取り上げられました。その番組で、もし昔ではなく今クリントンが暴かれたらどうなったかと皆で議論していたのです。

今であれば彼は辞任となったでしょうか。

「おい、知ってるかい?ジョン・エフ・ケネディと弟のボブはとてもお盛んだったようだよ。あの頃は職場での恋なんて当たり前だった」

そう言い放ったピーターの投資したバイオテクノロジーの会社では、職場での恋愛は会社として禁止し、定期的に社員の使用するコンピュータに性的描写のあるコンテンツがダウンロードされていないかチェックしているそうです。

「そうしないと、会社の価値が落ちて、投資が台無しになるからな」

彼は笑いながらそう言って、サーロインステーキを口に放り込みました。

* * *

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日本の外交アプローチの稚拙さを知らされた慰安婦像設置問題

“The mayor of the Japanese city of Osaka has said he is cutting ties with San Francisco because of a new statue there, overlooking a small park downtown.”
(大阪市長はサンフランシスコ中心街にある小さな公園での新たな銅像の設置を受けて、同市との交流を断つと宣言)
New York Timesより


このニューヨークタイムズの記事はsmall parkという言葉を使って、慰安婦像に抗議する大阪市長の行為を、皮肉をもって伝えています。もちろん、この記事ではある程度バランスをもって、戦争被害や人権問題に対する課題を伝えてはいます。とはいえ、ここで取り上げられた問題は思った以上に深刻です。

なぜ誤解が生まれるのか?

この前アメリカに出張したときに、たまたま韓国と日本との慰安婦問題が話題になりました。そのとき、アメリカ人のジャーナリストが、なぜ日本は謝罪しないんだろう、それだけのことなのにと私に質問をしてきたのです。

私は、この問題についての政治的なコメントは一切したくはありません。ただ、こうした話題になるたびに、日本の意思や意図が空回りしている現状を見せつけられるのです。
日本側は過去にこの問題は政治決着していると主張します。それにもかかわらず韓国が解決したはずのことを蒸し返してくると批判します。それはそれで筋が通っているかもしれません。しかし、日本がこの慰安婦問題のみならず、こと複雑な背景を持った問題を語るとき、そのロジックが海外に通じていないことが多くある現実を我々は知っておくべきなのです。

それには理由があります。
まず、複雑なメッセージを人に伝えるとき、そのメッセージの内容と量が相手に確実に伝わる確率は、それが伝達される距離が遠く、受け取る人が海外の人であればあるほど、低くなることを知っておく必要があります。
10を伝えるとき、おそらく相手には1伝わっていればよしとするべきなのです。しかも、その1は伝えたい部分でも最も単純なメッセージです。文化背景、歴史的背景等の複雑な事情は、なかなか相手には伝わりません。

そして悪いことに、伝わった単純なメッセージのみが、相手の判断の材料となるのです。さらに、メッセージを受け取る人が、日本とは異なる文化背景をもって生活している人々であることを我々はもっと意識すべきです。

例えばアメリカ人には少なくとも、女性差別に対する強烈なアレルギーがあります。たとえそれを建前だという人がいたとしても、それを口にするだけで厳しく糾弾される社会背景があるのです。しかも、長年アメリカでは日本社会での男女差別の問題が報道され、その負のイメージが定着しています。

さらに、最近CNNなどのメディアで常に取り上げられている話題が human trafficker の問題です。
human trafficker とは、人を奴隷化して売買する組織や人のことで、今尚世界各地でこうしたことが公然と行われていることが指摘され、社会悪として報道されているのです。

であれば、例えばこの慰安婦問題をアメリカ社会に問いかけたとき、「日本の言い分」が理解されず、アメリカ社会の「タブーのコード」に日本からのメッセージが引っかかり、それだけが強調され単純化されることは目に見えています。

つまり、メッセージを伝えるときの距離受け取る相手の文化の問題を考えて対応をしてゆかないかぎり、説明すればするだけ、誤解が深まるというジレンマに陥ることを知っておくべきです。

異文化摩擦を解消するには?

では、どうすればいいのでしょう?
そのためには、「フィードバックの文化」というテーマを考えるべきです。
距離があり、文化背景も異なる人に「日本の言い分」を伝えるには、常に問題がおきたその場で、マメに相手に情報を提供するというスタンスが必要なのです。

慰安婦問題の場合は、パク政権のときに日本政府と合意があった時点で、アメリカ社会にしっかりとメディアを通してその真意を伝えるべきでした。また、それ以前に日本政府が行ってきた「過去の過ち」への謝罪や、平和への努力を、その都度しっかりと韓国のみに対応するのではなく、アメリカの世論、世界の世論に根付かせるように努力しなければなりませんでした。
その上で、何か誤解があるなと意識した瞬間に、その誤解について具体的に指摘する努力を積み重ねるべきだったのです。このフィードバックの積み重ねが、日本側から行われていれば、問題はこじれることなく収拾に向かったはずです。

とかく日本人は、何か気に障ることがあった場合、心の中にそれを溜めたまま、自らの思いを主張することを怠りがちです。日本人の間であればそれは構わないのですが、英語圏で自らの意志を伝える場合、思ったことはその都度こまめに相手にフィードバックすることが大切なのです。
 
外交上の問題でも、ビジネス上の課題でも、課題を溜めておいて、ある段階で一度に語ろうとすることは最も避けたいことなのです。
まして、ある程度以上不満が溜まったときに、感情的な対応をすればさらに誤解の溝は深まります。大阪市長の対応はロジックのない感情論と誤解されかねません。何が課題で、それに対してどのように対応したのか、その都度冷静なメディア対応を継続し、関係者との話し合いを怠らないことが肝要です。

日本人は「阿吽の呼吸」というように、相手に直裁に言葉で説明することなく物事をすませようとしがちです。
逆に、移民社会の中で、文化背景の異なる多様な人々が交流し合う英語圏では、言葉ではっきりと表明することがコミュニケーションの基本なのです。

欧米人には「起承転結」で話してはいけない!

しかも、この努力を怠った末に、いよいよ状況が複雑になったとき、日本人は得てしてその問題の背景を説明しようと必死になります。
背景から話を切り出した場合、欧米人にはそのメッセージは伝わりません。それは何か苦しい言い訳をしているか、不明瞭な表現で煙にまこうとしているとしか思われないのです。
 
なぜなら、背景を話した後に、物事の本質へと迫るロジックの展開の方法は、欧米のコミュニケーション文化には存在しないからです。別の言い方をするなら、起承転結方式によるスピーチは、極東の漢字文化圏でしか通用しないスピーチ術だからです。この極東地域独特の修辞法に従って流暢な英語で話せば話すほど、皮肉にも英語力とは関係なく、誤解が深まってゆくのです。

英語でしっかりと相手とコミュニケーションをするには、彼らのコミュニケーション文化に従った修辞法を習得する必要があるというわけです。

まとめ

以上が、距離があり文化背景も異なる人々に「日本の言い分」が伝わらない理由となります。この理由を知っておかない限り、日本は誤解され続けることになってしまうのです。
日本人はとかく英語をうまく話す技術にこだわりすぎ、そこにコミュニケーション文化の差異があることに気づきません。日本人のロジックを海外に伝えたいならば、その伝える方法について、もっと繊細になってゆくべきなのです。
今回の大阪市長のとった処置は、上記の理由から、アメリカの世論からは一蹴される感情的な対応としか思われないのではないでしょうか。


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「本音を見抜かれて」山久瀬洋二・画
「世界の心の交差点で」〜コミュニケーションと誤解の背景〜

アメリカの中の「異文化」の歪みが顕在化した大統領選挙とは

「よく business is business という言葉があるように、欧米には、ビジネスとプライベートな感情をわけて対人関係を維持する文化がありますよね。例えば、仕事上では激しく意見を戦わせても、それは個人と個人との関係には影響を与えないというように。つまり、ビジネスとなれば、相手の立場への配慮や相手との人間関係とは別の次元で対応するんだというけど、それは本当でしょうか」

「その問いに答える前に、business という言葉の意味について考えてみましょう。この言葉、確かに日本では仕事と翻訳しますが、仕事といえば、働いて対価をもらうことを意味します。もちろん、business にはそうした意味もありますが、それとは別に、その人がかかわらなければならないことという意味合いも business という単語は含んでいます。これは私の問題だよ、だからほっといてくれというようなときに、It is not your business. といいますよね。だから business は決して仕事のみを表してはいないのです。でも、確かに、欧米では仕事でのやりとりと、個人的な感情とを分けて対応する習慣があるのは事実です。だから、あたかも喧嘩をしているかのように、激しく仕事上の論争をしても、それが終わればケロリとして仲良く食事をしたりすることは、ごく当たり前の日常なのです」

「今、説明された business という言葉の意味を考えたとき、選挙で誰に投票するかということも個々の business なわけですよね」

「確かに。だから、仕事場などに政治の話を持ち込むことは、日本でもそうですが、タブーなのです。相手がどのようなスタンスをもっているかわかりませんからね」

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「世界の心の交差点で」〜コミュニケーションと誤解の背景〜

アメリカで、話題についていけず、会話から取り残されたらどうしよう!?

「アメリカに出張することが多いんですが、いつも向こうの人と食事をしたりするとき、話ができなくて困るんです」

「会話についていけないってことですか?」

「例えば、向こうの人が数名いて、僕が一人のときなんか、最悪なんです。彼らが自分たちだけの話題に没頭すると、まったく取り残されてしまうんですよ」

「何の話題って尋ねてみればいいじゃないですか」

「そんなことできませんよ。だって、彼らはとても早いスピードで全く知らないことをしゃべるんです。ついていけないですよ」

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「世界の心の交差点で」〜コミュニケーションと誤解の背景〜

リオの五輪にみえた日本のお詫び文化を考える

「リオの五輪で期待に応えられずメダルを逃したり、金がとれずに2位や3位に甘んじたりした日本の選手が、インタビューで申し訳ありませんと謝っていますね。あれは不思議なメンタリティですよね」

外国人記者クラブでのランチのときに、そんな質問を受けたことがありました。

「あなたは日本に長いから、日本人が何か不本意なことがおきたらまず謝る癖があることを知っているでしょ。それなのになぜ今さらそんなことを質問するんですか」

「いえね。結局彼らは聴衆やファンの期待に応えられなかったことがあってお詫びしているんでしょ。それって、古典的な日本人の発想ですよね。最近日本人は昔ほど日常生活ではお詫びをしなくなったなと思っていただけに、久しぶりに印象に残ったんですよ」

「そうそう。日本の社会にも TPO を心得ない人が増えたような気がします。でも、選手がお詫びをすると、日本人はなぜかそれを真摯な態度だとすんなりと受け入れられるんですよね」

「というと?」

「いえね。単に多くの人の期待通りにいかなかったというだけではなく、選手がオリンピックにでるためには、様々なサポートを受けているでしょ。そうした他者の尽力や、優遇された状況があって、それで期待に応えられなかったことがお詫びの背景にあるんじゃないかと思うんですよ」

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